北へふたり旅 16話~20話
北へふたり旅(17) 第二話 チタン合金 ⑦
「折れたみたい」妻がつぶやく。
「お・・・折れた!。ホントか。どこだ!」
「手首。いうことをきかないの。ぜんぜんダメ」
手首をささえた妻が、カートの後部座席へ座り込む。
手首は腫れていない。色も変わっていない。
しかし。折れたという右手は、妻の左手のうえでぐったりのびている。
「だって君、2打目を打ったじゃないか。たったいま」
「打った瞬間はっきりわかったの。かんぜんにダメだって」
「い・・・痛くないのか!」
「う~ん・・・しびれているからよくわかんない」
尻餅をついたとき、右手がとっさに身体をかばったらしい。
そういえば妻の右手が地面をたたいたのを、見たような気もする。
そうと解れば躊躇している暇はない。
呼び出しのマイクを握る。
「けが人が出ました。至急対応をお願いできますか」
「はい。場所はどこでしょうか?」
「ナンバー3のモンスター回廊。2打地点です。
斜面で滑りました。
転倒したさい、右の手首を骨折した可能性があります」
作品名:北へふたり旅 16話~20話 作家名:落合順平