北へふたり旅 11話~15話
「会心の当たりでしたね」
ライバルの美女がうしろから話しかけてきた。
「何度もひどい目に遭ってきたからね。
肩の力がぬけて、我ながら、いいスイングができたと思う」
「うふふ。その通りね。
ゴルフ場のあちこちに、ゴルフの神様がいるの。
結果オーライもそのひとつ。
無理したり、欲をかきすぎると、手痛いペナルティがまっています。
ともあれ最難関ホールのナイスショット、おめでとう」
男子に過酷なホールだが、女子にはやさしい。
赤いティは、150ヤードも前にある。
坂道を下り切ると目の前に、大草原のようにフェアウェイが広がる。
赤いティから150ヤード先の山裾から、フェアウェイが左へ回り込む。
左の山裾ぎりぎり。そこが1打目のベストポジション。
とうぜん罠もある。
左へ飛び過ぎれば、ボールは雑木林の中へ消えていく。
ひとり目のライバルの美女は、安全にセンター狙い。
妻も危険を回避して、センターのやや左狙い。
前のホールでただひとりボギーだった12歳年下の美女が、
ドライバーを構える。
序盤の1打差は、あとで尾を引く。
早い段階で一打の差を取り返したい。そんな想いが美女に左を向かせる。
勝負に出た・・・
妻もライバルの美女も、12歳年下の美女のチャレンジに気が付く。
左山裾ぎりぎり。そこを超えればボールは、見えないフェアウェイの
真ん中へ出る。
そのために170ヤードの飛距離が必要になる。
そのせいか、いつもよりすこしだけ、距離を欲しがるスイングにかわる。
(あ・・・切り返しが早い・・・)
妻もライバルの美女も、一瞬のタイミングの狂いを見逃さない。
見慣れた12歳下の美女のスイングに、狂いが生まれた。
手元まで降りてきたクラブが結果を求めて、さらに先を急ぐ。
身体の回転が遅れたまま、美女のクラブが左へ振り抜かれていく。
(左へ出る!)
全員の目が、左の山裾へ向かう。
(15)へつづく
作品名:北へふたり旅 11話~15話 作家名:落合順平