北へふたり旅 11話~15話
北へふたり旅(12) 第二話 チタン合金 ②
翌朝、4時、家を出る。
ゴルフ場へ車をむける。
この時間帯ですでに、東の空は明るい。
Fゴルフ場まで15分。
自宅から、いちばん近いゴルフ場だ。
途中で、ひなびた温泉地、藪塚温泉郷を通りぬける。
昔、新田義貞が鎌倉攻めで傷ついた兵を療養させたことから、
義貞かくし湯伝説がのこっている。
千年以上途絶えたことのない豊富な湯は、無色透明の重曹泉。
肌をすべすべにし、肝臓の働きを活発にする。
内臓にやさしい藪塚の湯は、女性にも男性にも嬉しい効能をもたらす。
およそ半世紀前。ここには人があふれていた。
農閑期にはいった農民たちが、大挙してここへ骨休めのためにやってきた。
通りに面した3階建ての旅館に、人があふれた。
大広間に入りきれない人たちが、居場所を求めて廊下や階段まで占拠した。
50年が経った今、かつての賑わいはまったく残っていない。
人の気配が消えた3階建ての建物だけが残っている。
通りもさびれた。
そんなに温泉街を、車はあっという間に通過していく。
作品名:北へふたり旅 11話~15話 作家名:落合順平