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バールのようなもの
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novelistID. 4983
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おおきな桜の樹の上で(Ten years after)

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花見と言っても私達の花見は、おとなしく座って眺めるのではなかった。登って枝の上で見るのだ。

というか、花が散っていようが葉が落ちていようが、私達はよく桜の木に登った。
「ナントカと煙は高いところが好き」と言うが、そこに「子供」を交ぜてもいいと思う。
決して私はナントカじゃない。大人になった今でも高いところが好きとか、そんなことは絶対にない。断じて。

濃灰色をしたざらざらの幹に手をかけ、コブに足をかけて体を持ち上げる。思ったより軽い力で登ることが出来た。
スーパーで買ったもっさいパーカーを着た私はともかく、小洒落たジャケットを羽織ったまどかも、服が汚れるのを気にすることなく枝を登っていく。
程よい枝に腰掛けた。眼鏡がないのに遠くの山の樹までよく見える。心なしか、今よりもずっと緑が濃い。

「チョコシュー買った?一個ちょうだい」

「焼肉さん太郎は渡さない」

「聞いてないから」

駄菓子屋の袋を開けた。百円足らずで袋いっぱいの菓子を買えたことに驚く。そういえばこの頃は、百円も気軽に使うことができなかった。

それから合成着色料だらけの菓子を食べながら、取り留めのない話をした。嫌いな先生の悪口だったり、ゲームの話だったり、小説の話だったり。
すぐには思い出せない言葉も、話しているうちに記憶からほどけていった。芋づる式に思い出がなだれこんできた。楽しかった。永遠に続くんじゃないかというほど、話の種は尽きなかった。