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バールのようなもの
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novelistID. 4983
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おおきな桜の樹の上で(Ten years after)

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「きりーつ、きをつけー」

甲高い少年の声で我に帰る。
目の前には黒くて丸っこい頭が等間隔に並んでいる。
傷だらけの机、破れた緑色の壁、手書きの時間割表に掃除当番表。
小学校の教室だろうか。

「さよーなら!」

「さよーなら!」

周りの子供達(と言っても同じくらいの体格だ)に合わせて、慌てて頭を下げた。

「はい、ちゃんと言わなかった人がいるからやり直しー」

教壇の前にいる男性が、はつらつとした声で言った。
横田先生だ。私が小学校6年生のとき担任だった、大好きだった先生。

早く遊びに行きたい子たちが「誰だよー」とざわざわする。そのどれもが見覚えがある、懐かしい顔だ。
思い出す。六年二組の教室だ。目に映る全てが、寸分違わずあの頃のままだ。

「はい、もう一回」

先生が促すと、日直の子は再び号令をかけた。

「さよーなら!」

「さよーなら!」

今度こそ乗り遅れないように、子供らしいイントネーションに声を合わせ、礼をする。

顔を上げると黒板が目に入った。右端に4月28日、金曜日と書かれている。今年の4月28日は水曜日だったはずだ。
いや、それ以前に4月28日は昨日過ぎた。今日は29日ではなかったか。
私が小学6年生だった、10年前の4月28日ということか。

「あの頃」に居るんだ。

(やべえ…懐かしくて泣きそう…)

口元を覆い、目だけ動かして周りを見回す。私以外の子供はみんな、何事もなかったかのように振る舞っている。周りのみんなはまだ「あの頃」のままで、私だけが特別なようだった。