Joint
その揺るがない口調に、所田は何も言い返さなかった。しばらく走った後、見落としたことが次々頭に浮かんできて止まらないように、隣を走る柳沢に言った。
「待って。お前、救急車呼んだ?」
「結局、呼べてない」
それを聞いて、安心したように表情を緩める所田の横顔を見ながら、柳沢は思った。これ以外に、家に帰る方法は思いつかなかった。しかし、今の状態が『安心』なわけがない。篠山は、隣を走る舞野が別人に変わってしまったように、その横顔すら見られないでいた。圭一を『逃がした』と言ったこと。あの言葉は、これから楔のように、ずっと突き刺さったままになるのだろうか。
柳沢がいつもの別れ道で曲がっていき、所田と舞野が団地に続く坂を立ち漕ぎで上り始めた後、一人になった篠山は、井出商店の前を大きく迂回した。知らない道を通っていると、風が少し涼しくなったように感じて、意識していないと自転車を漕ぐ力は緩まっていった。
今日起きたことは、これから先の人生、誰とも共有できない。