北へふたり旅 6話~10話
「数年前のことだ。
中国から来た実習生たちにアパートを貸して、酷い目にあった。
やつら。日本のルールをまったく守らない」
「中国からやってきた例の実習生たちか。
たしかにあいつらは酷かった。
雇い入れた農家も嘆いていたからなぁ・・・
しかし。空き部屋が増えて困っていると言ったのは、おまえのほうだ。
いまごろになって、外人は駄目というのは無責任だ」
「老朽化が進んだ。そのせいで、空き部屋が増えた。
収入が減り苦労しているのは確かだ。
でもよ、俺は無責任な人間じゃねぇ。無責任はおまえのほうだ。
外人が入るというのは、初めて聞いた」
「こんど入るのは中国人じゃねぇ、ベトナムだ。
中国人ほどひどくねぇ。たぶん・・・」
「分かるもんか。
中国から生まれたんだぞベトナムは。根っこはひとつだ」
「なに?。そうなのか!。知らんぞ俺は・・・」
「べト(Viet=越)人は、3000年ほど前、揚子江の南から
さらに南へ移った。
南へ移住したべト人だから、ベトナム(VietNam=越南)と呼ばれた」
3000年前。彼らはレッド・リバーデルタ(ハノイ周辺)へ定着する。
地理的に近いことから、ベトナムは常に中国からの支配を受ける。
10世紀、中国の政治が弱体化した隙に独立を果たす。
その後9世紀にわたりベトナムは、独立を保つ。
中部ベトナムのチャム族を支配下に入れる。
さらにメコンデルタをカンボジアから奪い、ラオスの大部分も
傘下におさめる。
19世紀。フランスが進出してくるまでベトナムは独立を維持する。
ベトナムは誕生以来、中国と15回の戦いを交えている。
その度、中国の追い返しに成功している。
(8)へつづく
作品名:北へふたり旅 6話~10話 作家名:落合順平