北へふたり旅 6話~10話
たった2日で、借りたばかりのアパートを住めるようにするのは至難の業。
そばに居た妻がしゃしゃり出た。
「奥さん。私も手伝います」
「助かるわ。こういうとき、男は役にたたないもの。
掃除も必要だし、日用品も買い揃えなきゃいけないし・・・
手分けして、準備しましょう」
奥さんと妻が母屋へ消えていく。
Sさんが借りたのは、隣村の古い木造の一軒家。
一ヶ月の家賃は4万円。
トイレは、汲み取り式だという。
いまでも残っているのだろうか。そんな古式なトイレが。
Sさんは万事こんな調子。
作業中。ときどき居なくなることがある。
用事を思い出したのだろう。
または忘れていたなにかを思い出し、あわてて対応に動く。
Sさんの頭に、ものごとの優先順位はない。
思いついたら実行にうつす。それを信条とする。
計画性はない。
ゆえに奥さんは今日もまた、Sさんの無計画に振り回される。
「まったくもう、うちのひとときたら・・・」
今日もまた奥さんは、Sさんのしりぬぐいに走り回ることになる。
(遅くなりそうです。今日は)
助手席から顔をだした妻が、そんな風につぶやいた。
(7)へつづく
作品名:北へふたり旅 6話~10話 作家名:落合順平