『封魔の城塞アルデガン』第1部:城塞都市の翳り
「同じ魔術師でもガラリアンは正反対だった。奴は自分の魔力を恃んで敵を滅することしか考えていなかった。確かに奴は多くの魔物を倒した。だが、結局一人で戦っていたようなものだった。我ら戦士のことなど眼中になかった」
ボルドフは言葉を切った。
「ラルダが戦士ローラムに夢中で奴を顧みなかったせいだったのかもしれんが」
「言葉が過ぎるわよ。ボルドフ」アザリアがたしなめた。
「そうだな、別に奴の悪口をいいたかったわけではない」
ボルドフは苦笑したが、すぐに表情を改めた。
「おまえは常に仲間を守ることを考えていた。一歩下がったところで戦況を判断し、状況に応じた最善の手段でいくつもの窮地を切り抜けてくれた。アルデガンに魔術師の数あれど、参加した戦いで犠牲者を出したことのない者はおまえしかおらん。かつての仲間たちの感謝は決して尽きることなどないのだぞ。
そしていま、おまえは多くの弟子を立派に導いている。今夜の戦いでケレスが見せた采配はまるでおまえのようだった。確かに魔力の素質に恵まれた者は不足しているのかもしれんが、ならばいっそうおまえ抜きではアルデガンの魔術師陣の瓦解は免れぬ。違うか?」
ボルドフは無数の戦いを共に潜った女魔術師の両肩を、大きい無骨な両手でがっしりと掴んだ。
「おまえは昔も今もアルデガンにとってなくてはならぬ存在なんだ。絶対に無理だけはするな! 必ず帰ってくるんだ」
「ありがとう、ボルドフ……」アザリアは声を詰まらせた。
作品名:『封魔の城塞アルデガン』第1部:城塞都市の翳り 作家名:ふしじろ もひと