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ふしじろ もひと
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novelistID. 59768
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『封魔の城塞アルデガン』第1部:城塞都市の翳り

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「しかも犠牲者の、リアの負担は大きい……」
 アザリアの目に、まぎれもない苦悩が浮かんだ。
「自分から吸血鬼の影響下に精神をさらけ出すのと同じなのよ。転化は確実に早まるし、相手に気取られれば最悪の場合、精神をその場で乗っ取られることになるわ」
「そんな、ほかに方法はないんですか!」
 アラードの叫びに、アザリアはかぶりを振った。

「……アザリア様はその呪文をご存じなのですね」
 リアの問いかけに、アザリアは小さく頷いた。
「一度だけ使ったことがあるわ。でもこちらの動きを気取られてしまい、相手に裏をかかれて探索は失敗した。そして今の私にはもう二度と唱えられない最高位の魔法。アルデガンでこの呪文を使えるのは、もはや大司教閣下だけ……」
 アザリアはリアの前に進み出ると、教え子にして名づけ子である少女の顔をまっすぐ見つめた。リアもまた師の視線を正面から受け止めた。
「成功する可能性は低い。しかも魂は確実に危険にさらされる。それでも吸血鬼の居場所一つでも知ろうとすれば、この方法しかないの。
 リア、誰にも無理強いできないことなのよ。あなたが安らかな死を願っても、責めることなど決して」
「アザリア様、私の心は定まりました」
 リアは答え、大司教の前に額づいた。
「お願いです。どうか私をお役立て下さい。そして私の魂を神の御許へお送り下さい」
「危険すぎます、閣下!」「よい、グロス」
 必死の形相で叫ぶグロスをゴルツは制した。
「アラードの申すとおり、アルデガンに侵入しうる相手を野放しにはできぬ。危険であろうと手掛かりは欠かせぬ」

 アルデガンの長は、リアに祭壇に横になるよう命じた。
「そなたを眠らせ夢を通じ接触する。その方が支配を受けにくいはずじゃ。力を抜き心を空にせよ」
 ゴルツは呪文を低くつぶやきながら少女の上に身をかがめた。たちまちリアの意識は暗転した。のしかかるように迫る老人の、眼窩の奥深く燃える緑の双眸も窺えぬまま。