オヤジ達の白球 81話~最終話
「監督。胸が苦しい。いやに鼓動も速い。
身体がどうかなっちまったようだ。熱まで出てきたような気もする・・・」
「風邪でもひいたか?」
「風邪なんかひいてねぇさ・・・」
「じゃ、どうした。プレイボールの声はかかったぜ。
おまえさんが投げてくれなきゃ、ゲームははじまらねぇ。
みんなお前さんの投球を待ってるぜ」
「わかってるさ、それくらい。でもよ・・・
なんだか、身体が動き出さねぇ」
「緊張のし過ぎか?。それともプレッシャーに負けているのか?」
「みんなには、ずいぶん迷惑をかけた。
こんな風にマウンドへ戻ってこられる立場じゃねぇが、
またチャンスをもらった。
そんなことを考え始めたら、なんだか、体が動かなくなってきた」
「よく言うぜ。敵前逃亡した卑怯者が、一人前のことをいうじゃねぇか。
この程度のお膳立てで感動してどうする。
グランドの中での失敗は、グランドの中でしか取り返せねぇ。
そのくらいは、おまえさんでもわかるだろう」
「わかっているさ、そのくらいは。だからこそ・・・」
「いいからもう、なにも考えるな。
慎吾のミットをめがけて、思い切り投げろ。
せっかくみんなが用意してくれたマウンドだ。
感動するのは、試合に勝ってからにしろ!」
思い切り投げろよ。
耳元へそうささやいた祐介が尻をポンと叩き、ベンチへひきあげていく。
熊が心配そうに祐介をみあげる。
作品名:オヤジ達の白球 81話~最終話 作家名:落合順平