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オヤジ達の白球 81話~最終話

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 「それだけじゃないでしょう。
 熊さん。そろそろ、ホントのことを言ったらどうなの。
 北海道のおとうさんが倒れたんでしょ。
 農家を継ぐため、北海道へ帰るかどうか、実は悩んでいるって」

 「あねご。そいつを口にしちゃだめだ。そいつは極秘中の極秘情報だ!。
 俺個人のささいな問題だ」
 
 「えっ・・・おやじさんが倒れた!。
 それで北海道へ帰る気になったのか、熊?。
 そうか。そういうことか。
 ウチの投手は、熊、おまえさんひとりだけだ。
 お前さんが抜けたとたん、ここまで来た俺たちのチームが
 ばらばらになっちまう。
 そうなるまえに坂上を呼びもどしたということか」

 「まいったなぁ。それほどの美談じゃねぇ。
 北海道の農家といったって、ウチの畑はちいせぇ。猫の額のようなもんだ。
 食っていくのにせいいっぱいだけの土地に、執着はねぇ。
 しかしよ。電話のたびに弱気になっていくおふくろが、なんだか
 あわれに思えてきた。
 がらにもなく、帰ろうという気持ちがわきあがってきた。
 それだけのことだ」

 「おやじさん。悪いのか?」

 「余命半年。よくもって、あと1年だろうと宣言された。
 おやじが生きているうちに、百姓を教えてもらおうか、なんて考え始めた。
 親孝行のひとつくらい、せめて、おやじが生きているうちに
 したいなぁ・・・
 なんてかんがえはじめている昨日、今日だ」

 「そういうことなら、すぐにでも北海道へ帰る必要があるな。熊」

 「あわてて群馬から俺を追い出すな、監督。
 百姓してもいいかなと、ふと考えはじめただけのことだ。
 帰ると決めたわけじゃねぇ。
 だいいち。いまのままじゃ坂上が心配で、帰るにも帰れねだろう。
 あいつを何とかしないことには、安心して北海道へ帰れねぇ」

 
 マウンドで5球目を投げ終えた坂上が、おおきく肩で息をつく。
「プレィボール~!」
千佳の澄んだ声が、夜空へひびきわたる。

(おっ。試合開始だ。坂上のやつ、いったいどんな投球を見せてくれるかな)

 祐介が身体を乗り出す。坂上が投球のための前傾姿勢へ入る。
しかし、そのまま動かない。投げ出す気配がいっこうにない。
そのまま10秒、20秒と時間だけが経過していく。


 (あれれ・・・どうしたんだ?、坂上のやつ・・・)

 ピッチャーサークルで、石のように固まっている坂上の姿に
祐介が不安をおぼえる。
脳裏におもわず、あの日の記憶がよみがえってくる・・・



(83)へつづく