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オヤジ達の白球 81話~最終話

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 「日本には「道」がたくさんある。剣道、柔道、茶道、華道。
 この国はなんでもかんでも「道」にする。
 ただの技能で終わらせず、思想にまで高めて「道」にする。
 とうぜんのこととしてそれをおこなう「場」も、神聖な場として扱う。
 剣道における道場。茶道における茶室。
 すべての基盤になる「場」に敬意をはらい、そこから「道」が
 スタートする。
 野球にだって道がある。
 選手はグラウンドに入る前。当たり前のように帽子を取り、
 しっかり礼をする。
 グラウンドの中でもとくに、投手が上がるマウンドという場所は
 さらに神聖な場所になる」

 「寅。おまえの言いたいことは分かる。
 だがここは高校野球のグランドじゃねぇ。
 きれいごとなんか言ってる場合じゃねぇ。
 1度ならず2度までも足を運ばせるようなばか野郎は、思い切り、
 ぶん殴らなきゃ俺の気がすまねぇ!」

 「監督。このさい個人的な感情は捨ててください。
 参ったなぁ。おい、おまえらも集まって来い。緊急事態の発生だ」

 寅吉が内野手を呼ぶ。
1塁手、3塁手、遊撃手が、あわててマウンドへ駆け寄って来る。

 「とりあえずみんなで、坂上を囲い込め!」

 見れば坂上の帽子のつばから、涙がしたたり落ちている。

 (泣いてんのか・・・こいつ!)

 驚く祐介を、寅吉がそっとうながす。

 「監督。見ての通りだ。この場は俺がなんとかする。
 で相談ですが、あそこの美人の球審に、すこし時間をくれと
 交渉してください。
 このままじゃ投球にならねぇ。
 武士の情けだ。すまねぇがこいつのため、すこしだけ
 時間をかせいでください」

 「わかった。じゃここは頼んだ。時間は俺が稼いでくる」

 祐介が球審に向かって歩いていく。
寅吉がくるりと振り向く。そのまま坂上の背中へ寄り添う。

 「よう。泣くなというのは無理みたいだ。いいから泣くがいい。
 だがよ。制限時間はあまりねぇ。せいぜい2~3分だ。
 短いあいだに気持ちを整理して、投球動作へはいってくれ」

(最終話)へつづく