螺旋、再び 探偵奇談20
執拗に
「…え、何時いま」
目が覚めた時には隣に伊吹はおらず、瑞が慌てて階下に降りると、兄と伊吹がちょうど出掛けるところだった。姉と両親もいない。自分だけ寝坊したようで、キッチンの一人分の朝食にはラップが掛けられていた。
「おはよう瑞」
「おはようございます。すいません、寝坊しました…」
いいじゃないかと伊吹が笑う。
「久しぶりの実家なんだからゆっくりすればいいよ。よく寝てたから起こさなかったんだ」
髪が爆発してるぞと笑われる。情けない寝顔も見られてるし、なんなら腹出して寝てるとこも見られてるだろうし、なんかもうかっこつけていた自分が恥ずかしくなる。
「じゃあ行ってくる」
「いってらっしゃい」
二人を見送ると、家の中には瑞一人になる。久しぶりの実家。山鳩の鳴き声と、風の通り過ぎていく音。柔らかな日差しに木漏れ日が揺れ、キッチンの床に影を落としている。のんびりとした時間が流れている。学校からも、部活からも切り離された時間だ。温めた朝食を食べ終えて寝転がっていると、玄関から呼びかけらる。翔太だ。
「瑞、暇やろ?」
「めっちゃ暇。どっか行こう」
二人で外に繰り出す。といっても、子どもの頃のようにそのへんをぶらつきながら、とりとめのない話をするだけだ。それだけでも、昔に戻ったみたいで懐かしい。山際にある小さな神社の境内は、みんなで集まる定番の場所だった。夏祭りや子どもみこし、受験や家族との確執といった悩みも、ここで打ち明け合ったっけ。思い出の詰まった境内の座り、瑞は翔太といろいろな話をする。久しぶりだから、話すことは尽きない。
「あのひと、いい先輩やな」
昨晩、伊吹に会って翔太は好印象を抱いたようだ。そんな風に言われると瑞としては嬉しい。自慢の先輩だから。
作品名:螺旋、再び 探偵奇談20 作家名:ひなた眞白