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小さな世界で些細な活動にハゲむ高校生たち 2

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 でも、ちょっとは俺の攻撃が効いているっぽい。まだ顔が赤いままだし、いつもの堂々たる背筋の伸びが今日は明らかにわざとらしい。もしかして、俺のことを怖がって、威嚇のために自分を大きく見せている? カマキリみたいに……

「次は絶対仕返ししてやるからね。あんたなんか、今のでやっと一勝目なんだから。……悔しいっ」

 首を拭きながら喋るなんて、器用なやつだ。どっちかに集中できないのか。

「自信を得た。お前は首が弱いってことも知ったし、多分耳とか脚とか、……おっ●いとか……漫湖」
「いい加減にしなさい!」
「っ!」

 拳で殴られた。顔面を。このままじゃ顔が赤くなっちまう。勘違いされちまう。


 
 結局、俺は三智に勝てないんだ。ある種の運命なんだ。三智の支配下にある俺という構図は自然界に織り込み済みで、無理矢理俺が三智の上に立とうとすると反動となる現象が起きるんだ。きっと、そうなんだ……。
 悔しさに苛まれながら、赤くはれた頬を抑えながら、涙を必死に我慢しながら、俺は朝食を食べた。
 朝食中、俺の正面の席で肘をついてコーヒーを飲んでいた母さんは言った。
「なに泣いてんのよ、さっさと食べちゃいなさいよ。あんた、交尾の後のカマキリ知ってる? メスがオスを食べるのよ。あんたは食いつくされなかった分、良かったじゃないの。ギャハハハ!」
 心からの慰めだと、俺は信じる。大笑いした拍子にコーヒーを吹き出したけど、俺はそう信じる……。



 学校への道中。俺は仕方なく三智と歩いている。三智は機嫌を直しているよう
で、俺のちょっと前をてくてく歩いている。

「ねぇ、次の対戦ではあたしの胸揉むつもりだよね? どーせ」

 俺はまだ屈辱感の中にあるのに、ケロッとしやがって。

「揉むさ。絶対に恥ずかしくさせるさ。俺が受けてきた恥ずかしさの一億分の一くらいは取り返させてもらうさ」
「へー。首舐めは何億分の一なの?」
「百億分の一くらいだ。あんなんじゃ物足りない、もっとお前を辱しめないと気が済まない。揉むだけじゃなくて、舐めるからな。覚えとけ」
「はいはい、負け惜しみおつー」
「ちっくしょうっ」

 なんで悔しがらないんだ三智のやつ! もっと悔しがって屈辱感を味わえよ! これじゃ俺は抑圧状態継続中じゃねえか!

「ねぇ、あたしの胸、何カップだと思う?」
「うわっ!」

 こいつめ、腕に絡み付きやがって! 胸がむにむにと……当たってる。

「ねぇねぇねぇ! あたしの胸は、何カップでしょーうかっ?」

 このお調子者め。俺は屈辱感しか無いってのに。

「……C」
「ぶっぶー。Fでしたー」
「えふっ⁉」

 思わず、腕に絡み付いた胸をガン見。

「こーんなおっきい胸揉むんだよ、次。童貞のマサ樹クン、興奮しましたか?」

 に、にこにこしやがって! メス犬でもこんなににこにこしないぞ! 俺が性的な興奮をしてると知られれば、恥の根源を引き渡したのに等しい。三智は確実に有頂天になるだろう。

「……して、ない」
「そっか。ざんねんっ」

 全く残念そうではない。それどころか微笑みを浮かべている。

「何が可笑しい。来週揉まれるんだぞ?」
「来週はナシ。来週は、今日みたいな過激なやつじゃなくてさ、お腹くすぐるだけにするから。いいでしょ?」

 いまだ腕から離れる気配の無い三智。一歩踏み出すごとに、むにむにが腕を支配する。

「ただの嫌がらせはやめてくれ」
「やーだよっ」
「んだよそれ、クソッ」

 すっごい楽しそうに笑うなこいつ。自分が上ってことがそんなに愉悦なのか? 俺には必要の無い、害悪的な笑いだ。
 どうせ来週もやられる。再来週も、その翌週も。俺が三智に逆らえない限り。