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小さな世界で些細な活動にハゲむ高校生たち

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 捨てさせるわけにはいかない。捨てるために遠くから来たのなら、それは捨てちゃいけないものなんだ。最後の最後で思いとどまらないと、この先ずっと後悔してしまう。俺はこの右手を捨てさせない。もう俺には、その義務が発生してるんだ。捨てちゃいけないと分かりながら捨てさせるなんて、できない。そんな罪を、俺は犯せない。

「放してっ!」
「あ!」

 不覚にも放してしまった! 茶波ちゃんは大事そうに自身の右手を抱きしめる。

「本当に捨てるのか? そんなに大事そうにして、本当は捨てたくないんじゃないのか?」
「捨てなきゃいけないの! 私にはもう、何も無いんだから!」

 叫ぶ茶波ちゃん。狭い待合室に、かなり響く。

「何も無いってどういうことだよ!」
「マサ樹くんには分からないよ! 誰にも分からないことだから!」


 バァーンッッッ


「シャラーーーーーーーーーーーーップ!」


「ひゃっ⁉」

 唐突に引き戸を全開にしたのは、美化部の部長、レコミ。冷たい夜風がヒュウーッと容赦なく流れ込んでくる。

「マサ樹、掃除しなさいって言ったわよね? 家に帰りなさい?」
 ずんずんと俺に近寄ってくるレコミ。ロリなくせに威圧感まみれだ。
「断ります! 今帰っちゃいけないんで!」

 茶波ちゃんとこんなところで別れるなんて。

「嫌? じゃあ、それ相応の罰を受けてもらおうかしら?」

 現在、レコミは両手に軍手をはめ、鎌を持っている。草の汁が付いているから草刈りに使っていたのだろう。

「出しなさい?」
「え……な、何を?」
「コカンに付いた棒と玉よ! 掃除してない罰として去勢してやるわ!」

 鎌をぶんぶんと振りかざすレコミ。

「危ない、危ないって部長! 線路に飛び込むくらい危ない!」
「何意味わかんないことを言ってるの! わたしの前で出せないなんて言わせないわよ? さっさとセ●シ臭いパンツを脱ぎなさい? さもないと首を飛ばすわ!」

 鎌を振り回してバリアを形成しているため、手を付けられない。このままだと簡単に首《おしまい》だ。

「茶波ちゃん逃げよう!」
「え⁉」

 引き戸を全開にしてくれたレコミがありがたい。俺は咄嗟に茶波ちゃんの手を引いて、鎌の円運動領域から外れた床をめがけてスライディング、なんとか待合室を脱出、一気にホーム沿いの階段まで突き進む。

「お、マサ樹。なんでそんなに慌ててんだ?」

 偶然鉢合わせたのは五色。

「訳は後で話す! それより部長がマジでヤバい!」
「レコミが? ってエエエ⁉ ぎゃわわわわわ!」

 鬼の形相をしたレコミが鎌を振り回しながら追ってくる! もはや逃げるしかない!

「ふう、やっと終わった。ふわぁ~」
「あ! 杏子さん!」

 草引きを終えてあくびをしていた杏子さんを発見。もうこの人しかレコミを止めることはできない。

「きょきょ、杏子さんっ! 助けてっ、オレ殺されてしまいますぅぅっ」

 五色が杏子さんの腹にしがみつき、泣き始めた。杏子さんは仏のような顔で五色の頭を撫でまわしている。これで一安心か?

「大丈夫ですよ五色君、あの子は幼いころからとっても優しくて笑顔でお人形さんみたいでヨダレ掛けが似合っていて」
「杏子さん! そんなこと言ってる場合じゃないですよ、部長が!」
「落ち着いて落ち着い……⁉ ふぇえ⁉ ワタシにも手の終えない状況じゃないですか! 総員退避ィィィ!」

 なんだそれえええっ!

「待ちなさあああああああいっ!」「ぎゃあああああッッッ(誰の声かも不明)」