オヤジ達の白球 76話~80話
「どうするんだ。
研修生が来るというのに、ハウスがないのでは仕事にならないだろう」
「ハウスが間にあわないので、露地で野菜をつくります。
大量栽培が可能なキャベツか、ナスか、ホウレンソウでもつくります。
ぜいたくは言えません。
仕事をしなければ生活が成り立ちませんから」
「露地物の野菜か・・・背に腹はかえられないからな」
「そうでもないですよ。
露地の野菜造りは、農家の原点です。
狭い路地を耕し、うまく四季の天候とつきあいながら野菜を作って来た。
それが日本の農業です。
いつ頃からでしょうねぇ。
ビニールハウスをたて、工場のように、大量の野菜をつくり始めたのは?」
「そうだよな。
俺が子供の頃は、露地でたくさんの野菜がつくられていた。
太陽をたっぷりあびてまるまる肥ったトマトは、酸味があって美味かった。
夏休みに入ると、スイカの畑から、1個だけ失敬して
川へ泳ぎに行ったもんだ。
そうか。束の間だけ露地の野菜造りにもどるのか、
このあたりの百姓たちは」
「そういうことになるでしょうね。たぶん。今年と来年の夏は・・・」
きれいに整理されたハウスの廃材部品を見つめながら、慎吾が複雑に笑う。
しかし。ここに置かれた材料だけでは、ハウスの再建はできない。
ハウス部材のメーカーは、必死の増産をつづけている。
しかし、需要の規模がおおすぎて再建のための材料がいつ揃うのかは、
まったく誰にも分らない。
(79)へつづく
作品名:オヤジ達の白球 76話~80話 作家名:落合順平