オヤジ達の白球 76話~80話
「坂上?」熊がすばやい反応をみせる。
「坂上だって?。なんでいまさら坂上だ!。
あいつはおれたちを裏切った大バカ者だ。
投手は監督からおりろと言われるまで何が有ろうが最後まで、
マウンドで歯を食いしばって投げるもんだ。
自分から降板していく投手なんて、見たことも聞いたねぇ。
あんな不甲斐ない野郎の名前なんか、こんりんざい、
口にするんじゃねぇ。
名前を聞くだけで不愉快だ!」
「そういうな、熊。
あいつにだって事情はある。
敵前逃亡したとはいえ坂上はいまでもチームの一員だ、
と俺は思っている」
「寅吉。投手は俺一人じゃ不足か。
卑怯者の坂上が居なくても、おれが投げればじゅうぶんだろう、
このチームは」
「たしかに熊の右腕でおれたちは、たたかってきた。
それにはじゅうぶん、感謝している。
だがおれたちのチームがスタートした時、坂上というもうひとりの
投手がいた。
それもまた、事実だろう」
寅吉はゆずらない。となりで呑んでいた岡崎が助太刀の声を上げる。
「たしかにあいつは、試合の途中で逃げ出した。
たしかに前代未聞の出来事だ。
しかし。マウンドから逃げたが、退部したわけじゃねぇ。
名前が残っている限り、あいつはまだ、おれたちチームの一員だ」
作品名:オヤジ達の白球 76話~80話 作家名:落合順平