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短編集67(過去作品)

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 そういえば、私も佐智子を見たという感覚も、今だから言えるような気がする。お互いに未来を見つめていたのだろうか。それとも未来に思いを馳せている時に、相手の未来を見た気になっているのかも知れない。どちらも信じがたいことで、今なら何とでも言えることだが、お互いに同じ思いを抱いていたというのも、不思議なものである。
 常連として通った喫茶店での数年間は、今までの私の中では特別な期間だったように思う。その期間があったからこそ佐智子にも出会えたのだし、自分の今の性格を形成できたに違いない。
 だが、性格というのは持って生まれたものもある。持って生まれた性格を形成してくれたのが、常連という自分の中でのステータスだったのかも知れない。
 今やその喫茶店もない。戻る時代はないと言ってもいい。前を向いて歩いている私に戻る気もないし、見つめるべきものが分かっている気がした。
 私は朝の陽ざしを受けながら、今日も目覚め、洗面所に向かう。冷たい水で顔を洗うと目が覚めた気がして、一気に気分がシャキッとした。水に群れた顔をタオルでふくと、顔の筋肉が硬直していくようで、精神的にも落ち着いてくる。
 目をカッと見開いて目の前の鏡を見る。そこに写っているのは、髪の毛に白髪が混じり始めた私の姿で、知性に溢れている顔がそこにはあり、まだまだ本能のままに生きようとしている私に、優しく微笑みかけてくれているのだった……。

                  (  完  )
作品名:短編集67(過去作品) 作家名:森本晃次