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短編集66(過去作品)

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人生にとって…



                 人生にとって…


 佐吉にとって、今までの人生は、何だったのだろう?
 年齢は四十を過ぎている。一度結婚したが、うまく行かずに離婚を考えていた。原因は何だったのだろう? 佐吉が浮気したわけでも、妻が浮気したわけでもない。
――性格の不一致――
 聞こえはいいが、そんなことは最初から分かっていたことだった。
 趣味の合わない二人だということも分かっていた。妻は消費家ではないが、ショッピングが好きだった。佐吉ともよくスパーや百貨店に行くが、佐吉はいつも手持ち無沙汰。たまに、
「ちょっと出かけてくる」
 と言って、パチンコ屋に行くこともあった。しかし、なかなか当たるはずもなく、少しだけやって百貨店に戻った。そう、時間にして三十分程度のものであろうか。
 妻は、そんなこととは知る由もなく、ショッピングに勤しんでいる。
「もう少し待ってくださいね。すぐ終わりますからね」
 口調は落ち着いているが、顔色を見るとほんのりと赤くなっている。そんな時はショッピングに嵌っている証拠である。
――本当にちょっとなのだろうか――
 黙ってパチンコに行った負い目もあって、それ以上の詮索はしない。もうこれ以上パチンコに行くわけにもいかず、百貨店内を散策し始める。
 ここからが、佐吉の本当の時間だった。
 ある日、百貨店の本屋に寄ると、資格フェアーというのをやっていた。司法書士に行政書士、漢字検定から英検と、メジャーな検定試験の本があったり、奥に行けば、旅行検定や、歴史検定などのマイナーな検定試験の本が置いてあった。
 仕事で必要なものがあるわけではない。だが、持っていると恰好のいいものだ。少し物色してみるのもいいと思った。どうせ、時間はたくさんあるのだから。
 学生時代はあまり勉強が好きではなかった。特に英語は嫌いだったことから、英検は最初から見なかった。
「どうせなら、行政書士なんていいかな?」
 いろいろな科目を幅広くやらなければならないが、退屈しのぎにはいいだろう。
 佐吉の仕事は大体定時に終わる。会社までそれほど時間が掛かるわけでもないので、帰ってくるのが六時半くらいである。
 妻もパートをしているが、四時までなので、買い物をしても、佐吉が帰ってくる頃には食事ができている。
 たまに表で食べることもあったが、ほとんど家で食べていた。それは新婚の時と同じ気持ちでいたいという思いが佐吉にはあったからだ。妻も黙って毎日の家事だと思って作ってくれていた。
 外食しなくなったのは、佐吉の給料が減ったからだ。それまでは、平気で外食していた。
 一度妻が風邪を引いて、起きれなかった時に家事を手伝ったことがあったが、その時は料理を作るのにそれほど違和感はなく、却って楽しくできたものだったが、何が嫌と言って洗い物をするのが嫌だった。
「そこに置いておいてくだされば、私が後でしておきますよ」
 と言っていたが、どうにもその日によくなる気配はなかった。
 佐吉は、面倒くさがり屋のわりに、潔癖症だった。妻にそれを求めるのも当たり前だと思っていて自分の潔癖症を満足させてくれるのが妻の努めだとまで思っていた。
 そういう意味では妻は良妻だった。家事に手抜きもなく、佐吉の思っていることを忠実に実行してくれた。もちろん強制したわけではない。自分が強制してされるのはあまり好きではないからだ。
 命令することで満足感を得られる人もいるだろう。自分が仕切っていることに酔ってしまう人であるが、佐吉の場合は違う。どちらかというと、自分の目を信じたい方だ。
――自分の選んだ人に間違いなかったんだ――
 そう思うことが快感でもあった。
 潔癖症の人というのは、得てしてまわりにも求めてしまう。自分だけが潔癖症であればそれでいいというわけではない。そのせいで学生時代に何人もの友達を失った。その中には女性も多分に含まれている。
「俺の考えについてこれない奴とは、縁を切ってしまった方がいいんだ」
 と嘯いていたこともあった。
 誰もが潔癖症についてこれるわけではない。むしろ、敬遠したがるであろう。しかし、そのおかげで、本当の友達ができるはずであった。
 話をしていても、同じ考えの連中が集まっているのだから、白熱して一晩でも話し明かす連中もたくさんいた。
 ほとんど皆自分の意見を押し通そうとする連中が多い。得てして衝突しがちだが、意外とそうでもなかった。
 お互いに性格が分かっているからだろうか?
 似たもの同士は、デコボコがうまく嵌るのかも知れない。
 大学に入学してからは、一気に友達が増えたが、数ヶ月もしないうちに、付き合っている友達の数が激減してしまった。
 道で会っても挨拶をする程度。意見の違う連中とはそれでもよかった。
 サークルに参加するわけでもなく、バイトには勤しんでいたが、授業は真面目に受けていた。
 しかも講義室の一番前の席でである。気がつけば友達として残った連中は、皆講義室の最前列でノートを取っているような連中だったのだ。
「何か面白いことでも起こらないだろうか?」
 と、毎日思って生活していたが、結局平凡な一日で終わってしまう。それでも一日の終わりには、
「平凡でも、平和に過ごせてよかった」
 と思うあたりは、まだまだ小心者だったに違いない。そんな毎日を過ごしていた佐吉だったが、朝からテンションが高いわけではなかった。
 学生時代までは、朝が楽しかった。友達に会うだけで何かが起こりそうなドキドキした気分にさせられる。
 高校時代まで彼女というものを作ったことがなかった佐吉だったが、その願望は常々持っていた。しかし、
「皆一体どこで知り合うんだ?」
 という疑問ばかりが残って、知り合ってからの先の展開を想像することもできなかった。知り合うことができてからの方がよほど奥が深いということを分からなかったのだと思っていた。
 だが、実際に大学に入って女の子と知り合ってから、いろいろな想像を元に付き合ってみたが、思うようにいかない。高校時代までは想像できなかったわけではなく、想像できたとしても、発展性のないものだった。
 女性と付き合うということが、相手のあることだという意識に欠けていたところがあったのだ。
 知り合うまでのきっかけは、それこそ、そのあたりに転がっていた。
 というよりも、偶然の機会を逃すまいとして必死になって、無理なことを押し通してしまっていたのだ。
 電車に乗っていて気分が悪くなっている女の子に積極的に話し掛け、自分が降りる駅でもないのに降りて、気分の悪い女の子の家まで送り届けてあげる。
 冷静に考えれば、まるで火事場泥棒のようだ。相手の弱みにつけこんでいるだけに過ぎないのに、そのkとをまったく分かっていない。
 相手の女の子も、負い目があるからか。それとも、あまりのことに状況判断ができなかったのか分からなかった。
 きっと、その両方だったのだろう。彼女はそれまで男性と付き合ったことも、話をしたこともなかったようだ。何しろ女子校出身で、その時は社会人一年生だったからだ。会社では恐れ多くて、男性先輩と話をすることもなかった。
作品名:短編集66(過去作品) 作家名:森本晃次