奇っ怪山の未確認生物たち
こうして向かった奇っ怪山、鬱蒼とした木々で覆い尽くされて陰湿。しかも山道は急勾配で、心臓はパクパクでした。
だけれども娑羅姫はまるでアスリート。とっととっとと登っていかれます。
「おい、あいつひょっとしたら姫ではなく、ヤマンバの化身じゃないか。ひょっとしたら……、バテたところを首を絞められ、俺らを喰うのかもな」
浩二がこんな恐ろしいことをボソボソと呟くものですから、足がすくんでしまい、もう前へと進めません。
そんな姿を見て、30m先のヤマンバから「そこのボクちゃん、リズムは崩さず、ヨッコラセ、コッコラセ、ドッコイセと調子を取りながら登り来たれよ、さもなくば山サメに喰われるぞ」と声が飛んできました。
オーマイガット!
これって〈ヤマンバ〉 or 〈山サメ〉、その二者選択を迫られたということでしょうか。
そんな恐怖下ではありましたが、結論は「未確認生物『孝』を一目見たいで~す」と一応格好つけて、ヤマンバ疑惑の姫様に返させてもらいました。
そこからです、私はご指導通り、ヨッコラセ、コッコラセ、ドッコイセと足を前へと運びました。
このような登山で半日経過。
そしていきなり視界が開け、直径100mほどの池に辿り着いたのです。
水は碧く澄み、ただただ静寂の中に慎ましく御座候でした。
横にいた浩二は「この風景、インスタにUPすれば、絶対フィチャーされるぞ」と早速スマホをかざしてます。
「こらっ、浩ニィ、ここは神聖なる太古池、この存在を世に知らせば獄門磔(ごくもんはりつけ)の刑で処刑致すぞ、その覚悟はあるのか? それが嫌なら、さっ、そのスマホを」と姫さまが手を差し出しました。
浩二は野生人だが意外に怖がり、「異存ありません」と即答し、ブツを手渡しました。
すると娑羅姫は……。
ビ・ツ・ク・リ!
なんと水際で受け取ったスマホを、池に―― ポトリ ――と。
この状況を〈覆水盆に返らず〉風に表現すれば、〈スマホ手元に返らず〉でしょうか。
そんなことを思うや否や、まことに精度ある同心円の波紋が広がってゆきました。
そして約30秒が経過し、砕かれた水面は山々の風景を映す美しい水鏡(みずかがみ)に復帰。
この状態を確認した姫が――、ニッ・コリ!
これに浩二も、少し歪んだ表情ではありましたが、ニコッ、ニコッ、ニコッと3つ。
これって無理矢理笑いってこと?
しかし、オモレー!
私の疲れはここで一気に吹き飛びました。
そして思わず、「娑ーちゃん、ダ~イスキ、サイコー!」と叫んでしまいました。
作品名:奇っ怪山の未確認生物たち 作家名:鮎風 遊