奇っ怪山の未確認生物たち
されどもです、この突然の告白に、私たちの間に重たい静寂が……。
そしてそれを破ったのがやっぱり娑羅姫でした。
それは池の向こうを指差しながら「ご両人、よろしいか、まずは大好きとかの邪心を払え、そして池の向こうに焦点を合わされよ、奇っ怪山の頂上から下り来る一本の緑の筋が見えるじゃろ、あれこそが今宵月光を背に受けて『孝』が転がり来る孝の坂じゃ!」とまことに力強く告げ知らしめなされたのです。
私たちは目ん玉をその方向へと移動させ、間髪入れずに「視認完了」と報告しました。 これを受けた平家のお姫さま、さらに私たちをドーンと追い込みなされたのです。
「今から捕獲の準備にかかりなされよ、よいか、私は肉体労働が苦手じゃ、だから其方たちの働きを見張っておることにする。さっ、出陣!」
「なんだ手伝ってくれないのか」
浩二がボソボソと吐きました。
されどもです、長年探し求めてきた未確認生物・ツチノコに会えるのですよ、浩二は満面の笑みを浮かべ、私に指示を飛ばしてきました。
「そこの若造、坂の下の池の縁、そこの雑草を刈って、飛び込み台を作って、その下に網を張る。だから粉骨砕身に労働せよ」と。
えっ、この命令って、私たち三人は……、1番は娑羅姫、2番は浩二、3番は私、言ってみれば部長/課長/ただの社員の順位になったってこと?
私は不満でブーと口を尖らせると、浩二が嫌みたっぷりに「いいじゃないか、お前会社で慣れてるだろ」と。
この瞬間に重苦しい空気が辺りに一帯に。
されどもそれを打ち破るかのように姫がつかつかと近寄ってきて、耳元で囁いてくれたのです。
「直樹さん、今は貧乏スタッフだけど、将来は社長さんよね。私、何事にも頑張る男らしい姿を見てみたいわ、それによっては……、お嫁に行ってもよいのよ」と。
なんだこの艶めかしい話術?
アンタはクラブのチーママ・娑羅ちゃんか~い?
てなてなことが一瞬脳裏をかすめましたが、彼女いない歴ウン十年、いきなりお嫁さんになってもええって? おっ、おっ、おっ、――、ブラボー!!
私は握りこぶしで筋肉少な目の胸板をドンと叩き、「血を吐くまで頑張らせて、いったらきま~す」と。
あとは網走番外地の名優・高倉健さんが乗り移ったかのように、向こう岸の坂へと先頭切って歩き出しました。
作品名:奇っ怪山の未確認生物たち 作家名:鮎風 遊