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奇っ怪山の未確認生物たち

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 当然お言葉に甘えて、ちょっと臭めの靴を脱ぎ、長い廊下を進み行きました。
 案内された先は書院造りの離れ。
 床の間には、うら若き乙女が川に身を投げてる掛け軸が飾られてあります。
 浩二はどうも興味ありそう。とどのつまり「これ、めっちゃアンティークだね、おいくら?」と訊いてしまいます。
 姫はこんな不躾な質問を受けても別段驚く風もなく、「その女性は宇治十帖の浮舟よ、国宝級で、お譲りできないわ。だって浩ちゃんは売っぱらって、生活費にしたいんでしょ」とズバリ。
 これに浩二は「アイタタタタ、俺の心はバレバレか! だけど直樹も同じように、そう思ったよ」と私を盾にしてその場を乗り切ろうとします。
 これに私は頭にきて、「何言ってんだ、俺は貧乏サラリーマンだが、生活費は充分過ぎくらいにある!」と、ここへやっと辿り着いた疲れからか、ちょっと辻褄が合わない言い草で返してしまいました。

 こんなやり取りを聞いていたお姫様、「あらら、お二人には本当に飽きがこないわ、それよりも、さっ、ぶぶを」と、赤っぽい肉片が乗せられた一膳のご飯を差し出し、そこへ囲炉裏で沸き立ったお茶を注いでくれました。
 ぶぶ、それは古都ではお茶漬けのこと、私たちはそれを思い出し、あとは空きっ腹であったため肉片を噛むと同時にさらさらと胃袋へと流し込みました。
 それと同時に仄かな甘さが舌に残り、実に美味。すぐに浩二が「これ、何の肉?」と。
 娑羅姫にとってはこのような反応は想定内だったのでしょう。
「さっき言った通り、山トロよ、太古池に閉じ込められたまぐろが足を生やし、今は森の中を素早く走ってます、その山マグロよ。どう、おいしっしょ」と。
「なるへそ、そうなんや」
 これ以外に返す言葉が見つかず、あとは頓馬顔で、それはインスタ映え絶対しない――、♯ポカーンでした。

 このリアクションに姫からは「今宵は中秋の名月、奇っ怪山の『孝』が孝の坂を転がり下りてきて、故郷の太古池に飛び込む夜なの、兄殿たちはその未確認生物・ツチノコをまずは観察、運あれば捕獲下され。その結果、『孝』の祖先はイセエビか、シャコか、ナマコか、その謎に決着付けるためここへと足を運ばれたのすよね」と再確認があった。
 私たちはそれに「イエス、プリンセス」と即答すると、姫さまは一つコクリと頷かれ、言い放たれたのです。
「さっ、今から出掛けるぞえ、よってご両人、気を引き締めなされ!」
 このキツーイ活に、浩二と私は「ハッハー!」と背筋を逆反りするほど伸ばさざるを得なかったのです。