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奇っ怪山の未確認生物たち

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 娑羅姫のこの語りに、私はおったまげ、「タコもウツボもカニちゃんも……、ファンタスチック! いや、アメージング!」と、どちらがこの場面で正しい表現なのかわかりませんが、何はともあれ上擦った声を上げてしまいました。
 されども姫さまはさらに淡々と、鈴が鳴るような声で囁かれるのです。
「だけどね、大潮というか、満月の夜に、海の塩っ気を恋しがり、池に飛び込んでくる輩(やから)がいますのよ。それは何だと思います?」
 私はいいようにじらされました。
 がですよ、それがどことなく心地よく、答えとしてきっと妥当であろう「イルカちゃんかな」とクイック・レスしました。
 すると浩二の女友達・魔界平娑羅嬢はフフッと鼻で笑い、「その子は―― コウ ――なんえ」と。

 コウ?
 コウって、そんなやつ、海の生物にいてたかなと頭を巡らしましたが、思い浮かびません。
 そこで「お姫さま、質問! そのコウってヤツ、和名で何て言うのですか?」と訊きました。
 すると「コウって和名よ、漢字で書けば親孝行の前の孝(こう)。その生き物は有名な未確認生物なんだけどね、知ってるでしょ」と仰るではないか。
 そう言われましてもね、私には思い浮かびません。そして事ここに至れば、「ビール、もう一杯注文します」と間を取るしかありませんでした。
 こんな事態に陥った私を見かねたのか、浩二が「いいか、直樹、『孝』という漢字を分解してみろ」と助言してくれました。
 そこで私は箸に醤油を付けて、テーブルにゆっくりと書いてみました。

「オッ、オッ、オー!」
 私はまず1オクターブ低い発声をし、それから店内に響き渡るほど叫んでしまったのです。
「『孝』って、――、土・ノ・子、――、でっか?」
 かくして私は驚き桃の木山椒の木状態になってしまったわけですが、姫さまは落ち着いた調子で、「そう、ツチノコです、『孝』、つまりコウは雪花風月を好む落人たちの……、趣き言葉なんですよ」と柔らかく微笑んでくれました。
「そうなんだよ、直樹、俺は学生時代からツチノコを追っ掛けてきたけど、ここは千載一遇のチャンス。なあ直樹、満月の夜に山頂からの孝(コウ)の坂を太古池に向かって転がってくるらしいぞ。その終点に網を張って、捕まえようぜ」