奇っ怪山の未確認生物たち
さっそく浩二と私は網を飛び込み台の先へと持って行き、待ち受け完了。それから湖面に淡く映る青白い満月、その神秘な揺らぎを眺めながらしばらくの時を過ごしました。
そしていきなりでした。再び「ワーイ、オーイ、ヤッター」と摩訶不思議な鳴き声が。
そう、それは人面山イルカの発声、つまり『孝』の転がり行動の催促です。
「さあ、始まり始まり」
水際に楚々とたたずむ娑羅姫からVサインが送られてきました。
それとほぼ同時だったでしょうか、コンコロコン、コンコロコン、……、と坂の上の方から聞こえてきたのです。
もしこれがツチノコが転がる音だとしたら、どうも皮膚はかなり硬そう、その上転がる体形はまん丸でなく少々歪(いびつ)かな?
こんな事を想像しながら待っていると、音はどんどんと大きく、つまり近付いてきました。
その事態は確かだと感じた時、私の口から思わず、「あっ、あっ、あっ、これこそ、ツチノコだ」と。
それと同時にはっきりと目視しました。
尻尾の先をくわえてるのか、直径1mほどの太い輪っか状態。
色合いは褐色だが、月光の当たり具合でメタリックに赤、青、緑に輝いてる。
その転がり音はと言うと、近くになったせいか、コンコロコンから変化し、ゴンゴロゴン、ゴンゴロゴンと地響きし――、ちょっと痛そう。
それでも止まることなく、太古池へと一直線、まさにローリング・ストーンだ。
その後、あれっ、あれっ、あれっ、と唸ってる内に目の前を通過して行き、飛び込み台へと。
されどもです、さすが浩二、未確認生物のプロ、セットしたカメラのフラッシュをパチパチパチと超高速連写。
「お主、やるじゃないか!」
こう叫んでも、浩二のヤツ、私を無視したまま。
これにはちょっとムカッときましたが、そこからはただただ呆然と。
なぜなら信じられない事が起こったのです。
それは……、
転がり来たツチノコが飛び込み台の根元でピヨーンと跳ね上がりそのまま宙返り4回、そしてその一連の結末に巾20cmの細い先端に見事着地。
オッオッオー!
その決めポーズは尻尾を逆反りさせ、長い口先を水平にした垂直立ち、てなことをやらかしよりました。
これを体操床運動として評価すれば、新月面4回宙返り極細(ごくぼそ)1点着地、つまり難度はF以上なんでしょうね。
作品名:奇っ怪山の未確認生物たち 作家名:鮎風 遊