オヤジ達の白球 71話~75話
「なにか名案が浮かんだかい。
なにか、あたしたちにできることが?」
「国と県が潰れたハウスの片づけに、補助金を出すという話は
聞いただろう。
しかしなぁ、片づけるとなると、べらぼうな人手が必要になる。
あちこちでハウスがつぶれているんだぜ。
建設業界の人間を総動員したってとてもじゃねぇが、人手が足らねぇ」
厨房の祐介の手が止まる。
「そういえば、再建用の資材も足りないという話をテレビがしていた。
資材がととのうのは、来年か、再来年になるだろうという話だ。
どうなってんだよ、いったい。
そんなことじゃ再建が、ますます遠のいていっちまう」
「しょうがねぇだろう大将。それが現実だ。
資材会社だって、このあたりのハウスがここまで潰れるなんて
考えちゃいねぇ。
急いで生産したってぜんぶにいきわたるまで、おそらく
3年はかかるだろう、って話だ」
「在庫がないんじゃ、どうにもならねぇ。
どうにもこうにも、どっちをむいても、お先真っ暗な話ばかりだな」
「それだけじゃねぇ。
片づけを指名された建設業界だって協力はしたいが、
現状は人手不足のままだ。
そのうえ納期に追われた仕事をかかえている。
あまった人間はどこにもいない。
解体業者や、ハウスをたてる職人もいる。だが、数はしれている。
このままじゃ、ぜんぶを片づけるまで、どのくらい日数がかかるのか
誰にもわからねぇ」
「JAが動き始めたという話を聞いたが?」
「JAが、解体のための業者を手配しはじめた。
ウチへもJAから連絡が来た。
社長が俺を責任者にして、4人の解体チームを特別に編成した」
「熊、おまえ。ハウスを解体した経験があるのか?」
「解体したことはない。
しかし。大型のビニールハウスなら、いくつか建てたことがある。
少し前のことだ。
仕事が暇だったとき。ビニールハウスの建て方の講習会に
行ったことがある。
建てる逆の手順をたどれば、解体することができるからな」
作品名:オヤジ達の白球 71話~75話 作家名:落合順平