オヤジ達の白球 71話~75話
「ビニールハウスの倒壊も、車の立ち往生も、山村の限界集落の孤立も
ぜんぶ、今回のこの大雪のせいだ。
君がそこまで、こころを痛める必要はない」
「あんたのこころは痛んでいないの?
4番バッターが大ピンチなのよ!。
ハウスが潰れたら、農家は仕事にならないでしょ、
わかってんの、あんた!」
「言われるまでもネェ。俺だってこころを痛めている。
だけど。どうしょうもねぇだろう。
なんとかしてやりたいのはやまやまだが、ハウスが
そっくり潰れちまったんだ。
被害が大きすぎてとてもじゃないが、俺たちじゃどうにもならない。
手も足も出ねぇ」
「だからって何もしないで、ただ、事態を眺めているつもりなの?」
「倒壊したビニールハウスの撤去と再建のため、
国が3割の補助を出すそうだ。
県も助成のため、うごきはじめた。
なにしろこのあたりのビニールハウスのほとんどが、倒壊したんだからな。
行政が被害を受けた農家の支援に踏み出した。
素人のおれたちよりは、はるかに力になるだろう」
「お金の問題じゃないでしょ!。どう支えるか、ハートの問題でしょ!」
「ハートの問題?」
「この居酒屋が燃えたら、あなたはどうするの?。
夕方、出てきたら、居酒屋が燃えて灰になっていた。
呆然とするでしょ、あなたは。
それとまったく同じことが目の前で起きたのよ。
慎吾くんは突然、仕事の手段をうしなったの。
国や県が補助に乗り出して来れば片付けや、再建のための道は見えてくる。
でもね。すぐには再建できないのよ。
資材が届くまで、早くても1年以上かかるというニュースを聞いたわ」
「ぜんぶ再建するためには、2年以上かかる云うニュースなら俺も聞いた」
「どうするの。2年の間、無収入になってしまったら」
「生産手段を失ったというのは、そういう問題だよな。たしかに」
「しっかりしてよ。あんたは監督だ。
北海の熊さんが、あたしの携帯へ電話してきた。
あねご。ハウスが潰れた慎吾のために、何かしてやりたいって言ってきた。
選手が慎吾のために、こころを痛めているのよ。
監督のあんたが手も足も出ないと言って、事態を呑気に
ながめている場合じゃないでしょ!」
(73)へつづく
作品名:オヤジ達の白球 71話~75話 作家名:落合順平