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「つかさ」と「つばさ」

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 しかも、どちらの名前も、男女にあっておかしくはない名前であり、お互いにその共通性を証明できるものではないだろうか。
 皆それぞれに違う性格であるにも関わらず、お互いに何か引き合うものがある。それが共通性というべきなのか分からないが、点と点を線で結ぶと見えてくるものがあるように、一人の人間によって結びつけられたのだ。
 その一人の人間というのが中江つかさだった。
 彼女は趣味で小説を書いていたが、自分を含めた登場人物に注目し、一つの仮説を立てて、それを文章に起こした。それが小説となり、今静かなブームを呼んでいる。
 プロでもない彼女はネットにこの話を上げて、読者も増えているようだ。
 コメントに、
「共感します」
 であったり、
「うん、あるある」
 と、感情を書き出してくれた人もいた。
 登場人物がそれぞれどうなるのか、それはこれからの続編によるのだろうが、小説としては、中途半端なところで終わっている。
「少し理屈っぽく書いてしまったからですかね」
 と、中江つかさは思っているが、理屈っぽく書いてしまった理由には、緒方先生を中心に描いたからだと自分では思っている。
 本当であれば、主人公は緒方先生なのであろうが、緒方先生を全編で登場させるには、主人公ではいけない気がした。
 そういう意味ではこのお話に主人公は登場しない。その場その場で、つまりは章ごとに主人公は違っている。一種のオムニバス作品だとも言えるだろう。
 しかし、オムニバスではこの話は成立しない。何しろ、登場人物が見ているのは一方向だけなので、見えている先には、次章があるのだ。オムニバスでは話が続かないというのはそういうことである。
 それぞれにかぶっているところがあることから、
「何となく、尺取虫のようなお話ね」
 と、緒方先生に話したことがあった。
 この話の主人公の中で、この話について直接話をしたのは緒方先生だけだ。完成前に一度読んでもらったのだが、他の人には何も言っていない。だが、ウスウス皆気付いているようで、何も言わない。小説の内容から、誰もこの話について触れることを避けているのだろう。
 緒方先生も尺取虫という言葉を聞いてニコニコ微笑んでいた。
「まさにその言葉通りかも知れないわね」
 と言いたげだった。
 この話の根底にあるのは、
「負のスパイラル」
 である。
 その中にレズビアンのような発想であったり、二重人格性であったり、矛盾と無限の関係であったりがちりばめられている。
 作者である中江つかさは、全体をイメージしながら描いていたので、細部に関しては緒方先生の方が思い入れが激しかった中江つかさは、作者であると同時に、登場人物としても重要な部分を秘めている。
「中江さんは、小説家を目指すんですか?」
 と緒方先生に言われて、
「いいえ、あくまでも小説は趣味です」
 というと、
「もったいないわね」
 という緒方先生の言葉に、
「そんなことはないわ。私にとってこれ以上の作品を描くことはできないの。だから、これからも小説を書き続けて行きたいと思うと、高みを目指さないことが一番いいと思うんですよ」
 と中江つかさがいうと、
「そうね」
 と言って、緒方先生はニッコリと笑った。
 それはまるで中途半端な状態で終わった小説を完結させるかのような表情だった……。

                  (  完  )



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