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鑑定人・猫耳堂 一品目

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 また、半年後に目の前に置かれる30客のグラス。
 ウォーホルは満足そうに代金を支払い、24客を割って、出来の良い6脚だけを残した。
 パーティ用だと思っていた担当者が聞いた言葉、
「これから持つかもしれない、まだ見ぬ家族のためだ」
 ウォーホルは嬉しそうにそう云ったという。

『ウォーホルはあまり好きじゃないから、出品したときは興味がなかったのよ。落札された後にこのエピソードを知ったの』マダムはそう説明してくれた。ウォーホルが残したそんな6客の内の1客が目の前にある。なぜ6客の揃いが離ればなれになってしまったのかも、マダムから聞いている。
『日本に来てから何人か所有者が変わったんだけど、最後に、ある骨董店に持ち込まれたのよ。その骨董店では、6客の揃いだと買い手が限られるからって、なんとバラにして1客5万円の値を付けたのよ。無知って罪よね~ あなたそう思わない? 私だったらエピソードを雑誌に載せて、その十倍の値を付けるわよ。悔しいからこのエピソードは誰にも言わないの。あなたも他の人に言っちゃ駄目よ』いわれなくても俺には言う相手がいない。

 未亡人には簡単に、ウォーホル・コレクションの内の一つで貴重だから、と説明して、このグラスを残すことに納得して貰った。玄関先で『お礼』と書かれた封筒を渡されたが、丁重にお断りした。
「結構なコレクションを見せていただきましたので、こちらからお礼を言いたいくらいです。お子さんお二人はご結婚して、独立されているのですね?」
「あら? よくご存じですね。たしかあの方には言ってなかったと思いますが……」
 未亡人はそう言ってマダムの名前を出したが、もちろんマダムからは聞いていない。ウォーホルのまだ見ぬ家族に対して抱いていた想いを、未亡人に聞いて貰った。
 ウォーホルが遺した言葉
『I have never met a person I could not call a beauty.』
(美しくない人なんて、僕は出会ったことがない)
 を添えた。
 未亡人は少し涙ぐんで、再度お礼を渡そうとしていた。
「ご主人が生きていらしたら、今年は金婚式でしたね。今日の鑑定は、そのお祝い代わりです」
「私も忘れていましたのに、なんでそんなことまで……」
「ノリタケのクリスマスプレート、シリアルナンバーが全て『1965』でした。お二人がご結婚された年ですよね? ご主人は揃えるのに苦労されたと思いますよ」
 えっ!? という顔をして急いでリビングに戻る未亡人の後ろ姿に頭を下げ、豪邸をあとにした。

 後日、未亡人からの電話で知ったことだが、マダムから『祝 金婚』と書かれたお祝いが届けられたそうだ。
 お祝いの品は
『ラリック ウォーホル・コレクション』
 残りのグラス5客とウォーホル直筆のグラスデザイン画。

 その未亡人の電話から半日も経たずに、マダムからも電話が来た。
「あの方、ご主人の『ガラクタ』をお売りになるのをやめたみたいね。一つ一つご主人がどんな想いで集めていたのか、残りの人生で考えるって言ってたわよ。そんな退屈な人生、私なら耐えられないわね。それと、やっぱりバレてた?」
 マダムは悪戯っぽく言ったが、そんなことだろうと思った。そうでなければ、ウォーホル・コレクションのことなど、俺に聞かせるはずはない。
「あなたを焚き付けて、私が買い取ろうとしてたの、あなたにはお見通しだったみたいね。あなたのお節介のせいで数百万ほど儲けそこなっちゃった。責任とってくれるでしょ? マイセンの変わった灰皿を持っている人がいるのよ。行ってくれるわよね」

(一品目 了)