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星に願いを

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彼が彼女で彼女が彼で



ここがどこなのか

瞼越しに感じる、色の無い感覚
硬い布の肌触りに、微かな消毒薬の匂い
視界よりも前に分かった

聞き慣れない、声がする
聞き慣れない、自分の声がする

何故、自分の声だと分かるんだろう
何故、自分に話しかける自分がいるんだろう

夢のようで夢じゃない

胸元までの黒髪を緩やかに編み束ねた自分が
目を覚ましたであろう自分を覗き込み、笑う

「僕だよ」

夢のようで夢じゃない

目の前にある、自分の顔にぎこちなく手を伸ばす
その頬に触れる、この指は誰のモノ?

以前の自分のモノとは程遠い
広く、厚みのある手の平を何と無しに眺める

徐に彼女は記憶の断片をかき集めるも
見覚えのある手が、彼女のモノと思われる手を握り締める
天井を仰ぐ、彼女の思考を遮るように彼が言う

「何も考えないで」

抱き抱える彼女の手を離し
彼は枕元にある、ナースコールボタンを押す

「ただ、生きて」

言い残す彼は振り返る事なく、病室を出て行く
自分の背中を見送るのは何とも、不思議な気分だ

程なくして、看護師が顔を出す
恰幅の良い中年男性と
線の細い中年女性が続いて駆け込んで来る

名前を呼ばれ、彼の名前だと分かった
名前を呼ばれ、彼の両親だと分かった

何より目の前の中年女性は彼に似ている
だけど彼等は名前以上、何も言えないようだった

涙を堪え、言葉に詰まる父親
涙を零し、言葉にならない母親

そんな彼等を交互に見つめ、あたしは涙が溢れた

「ごめんなさい」

父親があたしの手を掴み、頷く
母親があたしに被さるように抱き締める

「ごめんなさい」

あたしは、あなた達の息子さんじゃない
あたしは、あなた達が大切に育てた息子さんじゃない

あたしで、ごめんなさい

作品名:星に願いを 作家名:七星瓢虫