星に願いを
理由
眼下、部活動に励む生徒たちの声が湧く
彼と彼女は錆びたフェンスに背を向け、地べたに座り込んでいる
肩を並べて、お互いの距離は
毎日、顔を合わす同級でありながら
挨拶程度の会話しかない彼と彼女にとって、その距離は
近いといえば近い
遠いといえば遠い、そして
どれ程、経ったんだろう
それ程、経ってない気もする
「どうして、死ぬの?」
別に沈黙に耐えられない訳じゃない
それならそれで悪くない気がしていたのも本心だから
唯、知りたい
唯、知って置くべきだと彼は思う
「お前なんか要らない」
正面を向いたまま彼女が答えた
膝を抱え込み腕組みする、細い指先が力を込めて白くなる
「あたしを産んだ母親に言われたら、死ぬしかなくない?」
好きも嫌いもない
要るか、要らないかそれだけの事
「あたしの存在が迷惑なら、仕方なくない?」
そんなの捨ててしまえばいいのに、と思う一方
それでも捨てられやしないと分かってる
「どうして?」
次は彼女が質問する
彼は人生を謳歌している、彼女の目にはそう映る
彼だけじゃない
彼女以外の誰もが、彼女の目にはそう映る
「僕も同じ」
「認めないと言うなら、要らないと言うのと同じ」
幼稚で
短絡的で、でも
彼と彼女にとっては唯一の理由
飄飄と「僕も同じ」と言う、彼に横顔を盗み見る
自分よりも活き活きと
自分よりも晴れ晴れとしている彼が、自分と同じ?
当惑する彼女を余所に彼は言葉を続ける
「でも」
でも?
「今は考え直してる」
やっぱり、彼女は密かに思う
自分も今日の今日まで実行出来ずにいた
そうだ、彼女は知っていた
終わりだと言いながらも終わりの覚悟が出来ていない事
彼女は意識の中で知っていた
今日の今日とて実行出来るか分からない
「飛び降りって色色、迷惑かけそうでさ」
「え?」
「掃除とか色色、大変そうで」
彼の予想外の発言に彼女は僅かに目を丸くする
だけど、言われてみればその通りかも知れない
そして、考え直した最大の理由ともいえる
彼女と彼の背後に聳える錆びたフェンスを見上げ、彼は零す
「登るの、地味に苦労しそうでさ」
その目線を追い、彼女も錆びたフェンスを仰ぐ
小さく溜息を吐いたのは落胆なのか、安堵なのか分からない
再び彼に視線を戻した所、目が合った
いつから見ていたのか
真っ直ぐ、自分を見つめる黒目勝ちな目
一向に動く気配のない彼に彼女は僅かに身を引く
いつまで見ているのか
「保留にしない?」
一転、朗らかに笑う彼
思わず彼女は頷きそうになったが、辛うじて留まる
それでも彼は微笑んだままだ
その笑顔を眺め、思う
彼と自分は同じじゃない
彼は自分にはなれないし、自分も彼にはなれない
あたしはこんな風に、笑えない