星に願いを
屋上
「何、してるの?」
振り向く、彼女の制服の裾が舞う
錆びたフェンスを掴んだまま、何も喋らない
手っ取り早い自殺行為
感情を殺す事は日常茶飯事だ
彼を知っている
落ち着いた雰囲気の彼は読書が趣味らしく
教室の一番窓際、前から二番目の席
級友たちの喧騒を余所に読み耽る
かと言って、彼は孤独ではない
稀だが級友たちと戯れる
一番窓際の一番後ろの席でそんな風景を目にする
友達もなく、作ろうとしない自分とは大違い
感情は殺す事が出来ても、関心を殺す事は出来ない
微かに顔を顰め、彼女は俯く
そんな彼女を見つめる事、数分
彼は中中、掛ける言葉を見つけられなかった
彼女を知っている
誰よりも何よりも優姿で
誰よりも何よりも心悲しげで
誰かに何かに手を伸ばすのが苦手なコ
これ以上、誤魔化せない
これ以上、長引かせない
彼の目的は一つ
「僕は死ぬつもり」
彼の突然の告白
当然、驚きは隠せない
それでも彼女は上手に隠し、顔を向ける
にっこり微笑む彼がいた
想像出来ない
理解出来ない
目の前の彼が何故、死を選ぶのか
想像出来る?
理解出来る?
抑、自分も死ぬ為にこの場所にいる
「あたしも、そう」
小声で、彼女が言う
過ぎる風に頬を撫でる髪を手繰り寄せ、耳元に掛ける
もしかしたら自分の声は届かなかったかも知れない
「で、どうする?」
「え?」
言葉の意味が分からず
彼女は翳りの差す眼差しで彼を見つめる
「先に飛ぶ?」
「後に飛ぶ?」
長閑な口調で、物騒な事を言う
顔面偏差値高めで穏やかな性格の彼は女生徒に人気がある
彼に促されたら
もしかしたら素直に飛ぶだろう
もしかしたら喜んで飛ぶかも知れない
自分は彼とは関係なく、飛ぶ
カオス的な事を考えて
彼女は吹き消すように小さく笑う
大袈裟ではなく、彼は彼女が笑う場面を初めて見た
今、過剰に反応したら二度と彼女が笑う事はない気がして
素知らぬ顔で笑い返す
「それとも、一緒に飛ぶ?」