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星に願いを

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そして彼(彼女)の場合



話の腰が折れたのは好都合
先を話す必要はない

あの夜を教訓に今の鉄仮面の上総がいる

外灯の下
一歩、足を踏み入れる

彼が面白そうに、くいっと眉を上げた
実際、顔には白い歯がこぼれる

意味を理解している上総は
「黙れ」と、言わんばかりに舌打ちを噛ます

お互い、一定の距離を守るのは暗黙の了解だ
上総は安全圏である、その間合いを詰める

消滅は覚悟の上
そうまでして言いたい事、聞きたい事がある

「言った筈だ」
「絶望よりも希望を望んでいると言った筈だ」

「お前は」

だが、分からない
何時の彼女が彼女だったのかも
何時の彼女が死神だったのかも

だが、分からなくない
何時だろうと彼女と死神はリンクしていた筈だ

彼女の言葉だろうが
死神の言葉だろうが、それ故の言葉だ

「ああうん」
「彼女は望んでいた」

まじまじと上総を見つめ彼はゆっくりと頷く

彼女の望みは、たった一つ
「幸せになりたい」、たったそれだけ

「母親は望んでいなかった」

上総の剥いたままの青鈍色の眼が
徐徐に赤みを帯びてくる

充血する、その眼を眺め彼は可笑しくて堪らない

「たった、それだけの話だよ」

なんとも悪魔とはこんな血の気が多いのか
それとも目の前の悪魔だけか

何れにしろ聞いた話と違う

彼として生きる、下界での生活
束の間だが大層、窮屈な生活

だが、退屈せずに済みそうだ

言うつもりはなかったが言わずにはいられない

「母親は延延、旅行中」

彼の言葉に上総は唇を歪める
悪魔の冷笑を受けて、彼は天使の微笑みで返す

「地獄巡りも彼氏と一緒なら楽しいだろ」

思わず
項垂れそうになる頭を
上総は顔を逸らして何とか堪える

その様子に彼は少しだけ罪悪感が湧いた

ご褒美のつもりだったけど
喜んでもらえなかったみたい

本当に悪魔なのかな?

首を傾げ、不満そうに唇を尖らせる
多少、疑いの眼で見るもわくわくが止まらない

「楽しいといえば君も相当、面白い」

固く口を閉じたまま上総は反応しない
向ける横顔の咬筋に力が入る

「新米だから舐めてるのか?、って聞いたね」

彼は一歩、二歩と上総に歩み寄る

「そうだね」
「何時までも正体に気付かない奴なら舐めるかな?」

そうしてもう、縮める距離はない

「それは消滅を意味するから」

見た事がない
聞いた事がない

それは言い訳にならない

彼は身を屈め、その顔を覗き込む
仕方なしに上総も彼の顔に視線を移す

対峙する彼の黒目勝ちの眼が
瞬きと同時に鮮やかな深緋色の眼に変わる

煌煌とする
彼の眼に見入りながら上総が呟く

「記憶喪失の死神の戯言か」

否定はしない
それこそ詰まらなくなってしまう

彼は徐に眼を伏せ笑う
身を翻し、上総に背中を向ける

「次に(会えたら見逃さないよ)」

「次はない」

皆まで言うな宜しく
言葉を被せ、あっさり否定する上総を振り返り
彼が甲高い声を上げる

「まじでー?!」

肩を竦め、両手を広げて
御巫山戯で残念がる彼だが深緋色の眼は違う

何時だろうと
何処だろうと見つけられる

そう、語っている

上総は一歩、後退る

「見逃してやる」の言葉通り
そろそろ尻尾を巻いて逃げた方が良さそうだ

「そんなに会いたきゃあ」

闇に溶ける自分の影を見下ろしながら
上総は吐き捨てる

「魂と引き換えに星に願え」

作品名:星に願いを 作家名:七星瓢虫