星に願いを
死神
「待て待て待て!」
慌てた和泉が
素っ頓狂な声を上げて口を挟む
上総は話の腰を折られた事よりも
これから始めるであろう和泉との対話に辟易する
「死神が仮の姿ってーのは分かる」
「分かるが上総も仮の姿とは一体、どういう事だ?!」
回答を求めて
目ん玉をひん剥く和泉に上総は答えず
一瞥を投げるだけ
普段なら効果覿面
上総同様、和泉も目の前の悪魔が厄介だと知っている
ややこしくなる前に引くのが賢明だとも
だが
有耶無耶に出来ない事もある
「仮の姿云云」が回答拒否なら質問を変えるだけだ
「なら、彼女は?!」
本当に聞きたいのはこっちだろう
と、青息を吐く上総は眼も合わせない
それでも相手の事等、お構いなしに絡んでくるのが和泉だ
良くて無邪気、悪くて無神経
「おい!答えろ!」
嘘は容易いが騙せる嘘が分からない
上総は諦めたように口を開く
「生憎、何時から彼女で何時から死神か」
「俺には見当もつかない」
奴自身、自我を忘れるくらいだ
彼女だと思う時でさえ、奴だったのかも知れない
呆然としながらも
和泉はその横顔を眺め素直に頷く
上総がそう言うのなら、その通りなのだろう
高層ビルの屋上
上総は闇夜に浮かぶ都市を見下ろす
星といい
光といい
魂といい、此処は眩し過ぎる
「どの道、奴が女の魂を回収した」
自ら命を絶つモノは輪廻から外れる
そして延延、魂を回収する側の死神となり
輪廻に戻る機会を待つ
当然だが
魂を横取りする悪魔に良い顔はしない
しない処か、排除対象
「結構な数だ」
「ぁん?」
独り言の筈が耳に届いた和泉が相槌を打つ
仕方なく上総は言葉を続ける
「結構な数を回収しないと輪廻に戻れない」
「奴等こそ必死なんだ」
「では、彼の死神は上手い事やったじゃないか」
何気ない和泉の言葉
上総は眼をまん丸くして無言で和泉を見遣る
食い入るような上総の視線に
思わず、身を引いた和泉だが上総同様
眼をまん丸くして付け加える
「本意か不本意か」
「肉体を手に入れる事が出来たのだから、上上だろう?」
「そんな事」
和泉に指摘される迄、考えもしなかった
言い淀みながら上総は思う
死神は管轄外
彼の死神は上総の想定外
瞬間、上総が奥歯を噛み締める
凄まじい音が周囲に鳴り響く
事情が呑み込めない和泉は
奥歯の痛みを想像して、自分の顎を押さえた
「俺は」
「本当に命拾いしたようだ」