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星に願いを

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彼(彼女)の場合



彼は薄闇に身を隠す
息を潜め自分の足元をじっと凝視している

何時までこうしているのか
何時までこうしていればいいのか

そう時間は掛からない

お互い彼女の姿を見送って
どのくらいの時間が経ったのだろう

お互い身動き一つ
と、いうより黒衣の人影が微動だにしない

出来るなら
気付かれずに立ち去りたいが
上手くいく訳がない

いい加減しんどくなってきた

彼の焦りとは裏腹に
上総は彼の存在を知っていた

彼女の足音から遅れる事、数分
公園の入り口からずっと後を付けてきた
そして、ずっと自分達の会話に聞き耳を立てていた

溜息交じりに言う

「出て来い」

そう時間は掛からない

遊歩道脇に設置された
ベンチ横の木立の陰から彼が姿を現す
正確には彼になった、彼女だ

屈みっぱなしで
痺れた両足を手の平で擦りながら
覚束ない足取りで上総と向かい合う

「契約希望か?」

上総自身
呼ばれた覚えはない

当然、彼は吃驚して頭を左右に振る

それで?

去る事も語る事もしない
彼に上総は苛立ちを隠せない

勿論、隠す気のない上総の凄む眼に
彼は更に委縮する

「じゃあ、何だ?」
「俺が珍しいとでも言うのか?」

上総の言葉に彼は素直に頷く

目の前に立つ黒衣の外套を羽織る
濡羽色の髪に青鈍色の眼をした、悪魔

真面にその顔を見れば幼さが見え
牙を剥く仕草さえも何故か愛嬌に思えてくる

恐怖よりも
今は興味の方が勝っていた

彼の観察等余所に
上総自身、自分の発言に「そりゃあそうだ」
と、歪めた唇から牙を覗かせる

何だってんだ
人間に好かれる趣味はない

抑、素知らぬ顔で立ち去れば良かったんだ

益益
自分の間抜け加減にうんざりする

「俺は人間等、珍しくない」

吐き捨て踵を返す
そうして歩き出した黒衣の背中に彼が言う

「ありがとう」

彼を見つけてくれて
彼女を見つけてくれて

三度、高層ビルの屋上

踝に掛かる程
丈の長い黒衣の外套のポケットに手を突っ込み
和泉はお道化たように裾をはためかせる

「まあ、何だ」
「礼とは照れるなあ、おい」

にしても
今の鉄仮面からは想像も出来ない
昔の上総は言動も態度も青臭いというか、笑うな

和泉はにやにやしながら
鉄仮面を貼り付ける上総の横顔を盗み見る

一瞬
顔を顰めたのを見逃さなかった

「やっと分かった」

え、今更?
思うも和泉はその横顔をじっと見入る

上総は鉄仮面然として言う

「言葉を交わして、やっと分かった」

作品名:星に願いを 作家名:七星瓢虫