星に願いを
彼女(彼)の場合
彼女は
自分の上着の襟元を手繰り寄せる
日に日に深まる秋に
日に日に冷え込む朝晩の対策として
母親のクローゼットからカーディガンを拝借した
未だ旅行中だ
公園内の広場を臨む小高い丘
外灯の下、立ち止まる彼女の影が足元に消える
「話しが違う」
背後より放たれる声に彼女は振り返る
黒衣の外套を纏う人物は上半身を闇に置いたままだ
「だね」
「僕も吃驚だよ」
待ち合わせをした訳じゃない
「嘘吐け」
見透かされるのは承知の上
大袈裟に肩を竦めて笑って見せる
「でも、僕と貴方の話しでは」
促すように言葉を切る
彼女の態度に苛ついたが上総は後を続ける
「女が死を望まなければ」
「お前の魂も手に入れる事が出来ない」
再び、高層ビルの屋上
上総の話を腕を組み仁王立ちで聴いていた
和泉がゆっくりと、その横顔を見遣る
確かに 「新人時代の経験談を聞きたい」
と、面白半分に上総にお願いしたのは他でもない自分だ
思いの外
淡淡と語り始めた時には驚いたが
それならば
と、横槍を入れる事なく大人しく
拝聴しようと思うも今やその心境は白けている
上総も和泉の視線を受けて
不本意ながら問う
「何だ?」
そう、問わなければ
仕舞いまで絡んでくる厄介な奴だと理解している
和泉がここぞとばかりに咆哮する
「ドン引きだよ」
「私には大層、偉そうな事を抜かすくせにだ」
「上総、貴様だって」
腕組したまま
首を伸ばし顔だけで詰め寄ってくる和泉に
上総は右手を挙げ、制する
「確かに」
加熱し始める和泉を止める術は
素直に認める事だ
「俺は新米の営業で」
「和泉ほどではないが客の確保に焦っていた」
神妙な様子の上総に
多少、拍子抜けするも和泉は満足げに頷く
軽くディスられた事にも気付かない和泉に
構う事なく上総は続ける
「欲張った結果」
「男の魂も女の魂も得られなかった」
消滅に値する、失態だ
そうして
歯茎を剥く、上総の鉄仮面が崩れる
「しかも奴は逃げ道まで用意していた」