星に願いを
生きて
彼は「遺書」を残していた
携帯電話と共に置かれた「遺書」に手を伸ばすと同時に
階下の固定電話が鳴り響く
すぐさま
子ども部屋を飛び出すも思うように身体が動かない
足が震え、階段を踏み外しそうになるのを堪え
母親は何とか受話器に辿り着く
学校からの連絡だった
放課後の教室で
倒れている彼を同級生が発見
駆け付けた養護教諭の判断で救急車を呼んだ、と
病院での診断結果は、疲労
彼は長年、不眠症であり
ここ数日は禄に睡眠していない事が原因だった
飲んだ筈の毒は検出されなかった
風に戦ぐ白いシーツ同様
襞を靡かせる若干、短め仕様になった制服のスカート
彼は徐に
そのポケットに手を入れる
「不思議だね」
言いながら
取り出したのは袋に入った、残りの「飴玉」だ
「まだ、持ってるの?」
他意はない
だが、彼は肩を竦めて答える
「もしかしたら、元の姿に戻れるかも?」
飄飄とした調子で
核心を突く彼の発言に暫し
お互いの顔を見合う
彼には秘密がある
彼女にも秘密がある
彼女は
「飴玉」が原因だとは思えない
水泡のように浮かび
水泡のように消えた、声
彼は
彼女に聞かれたとは思っていない筈
彼の知らない、彼女の秘密
彼女の知らない、彼の秘密
彼を見つめたまま
沈黙する彼女の意思を勘違いしたのか
「どうする?」
彼は
あの日と同じ言葉を口にする
「先に飛ぶ?」
「後に飛ぶ?」
「それとも、一緒に飛ぶ?」
幸い学び舎の屋上と違い
この屋上の低めのフェンスなら容易く超えられそうだ
視線を泳がす
彼女の返事は早かった
「分からない」
彼は彼女の人生を引き継いだ
彼女は彼の人生を引き継がねばならない
彼女にはそれが出来ない
彼女になった彼は以前の彼女同様、不幸せになるのだ
そうに決まっている
俯く彼女の耳に
近寄ってくる彼の足音が届く
「なら、生きて」
彼女の顔を覗き込む
清清しいまでの笑顔で彼が提案する
「僕も生きるから、君も生きて」