そんな訳が。
「そんな下卑者の戯言に、耳を貸してはいけません!」
牢内に、声が響いた。
「信心深き者を <至高の存在>はお見捨てになりません! 汚れた契約など交わさなくても、貴方は救われます!!」
<冥忌士>の視線を追って、私も振り返る。
「選ばれしものを<天上界>に導く、ありがたい<天上使>様の ご登場ですな?」
虚空には、まばゆく光る人影が浮かんでいた。
「卑しき存在よ、退きなさい!」
「…それは、貴公の話の内容 如何ですな」
「下賤のものが、たわけた事を。」
「どうやって この御仁をお助けする おつもりで?」
「─ 刑が執行される 正にその瞬間に、<至高の存在>によって、この者の信仰心に相応しい、奇跡が行なわれます」
「ほう」
冷笑する<冥忌士>。
「結果的に 救いの手が差し伸べられなかった場合には、この御仁の 信仰心が足らなかったと?」
「全ては…<至高の存在>の御心次第です。」
「前もって、上手い失敗の言い訳が用意された約定を信じろとは、さすがに<天上界>の住人、虫が宜しい事で」
「…我らを 愚弄するつもりですか!?」
「事実を述べたまで ですな」
当然の摂理を告げるかの様に、<天上使>が反論する。
「もし奇跡が行なわれず その者が処刑されたとしたら、それは<至高の存在>より 与えられた試練です。それにより徳を積む事で、<天上界>への道も近くなります。何の不都合がありましょうや」