そんな訳が。
「お助けしましょうか?」
鉄格子窓を見上げていた私の背後で、低い声が呟く。
振り返って、出口の方をを見る。
開かれた形跡のない 牢の扉の前には、見知らぬ 小柄な男が立っていた。
「小生は、<冥忌士>で御座いますれば」
人を誘惑して堕落させ、<地下界>へと堕とすとされている存在は、僅かに右足を後ろに引きながら 左腕を軽く横に伸ばし、右腕を掌を軽く胸に添える形でお辞儀してみせた。
「貴公と、契約に参りました」
「…え?!」
「この後、<邪術使い>として処刑されるのは、貴公の本意で?」
「そ、そんな訳が!」
「で、御座いましょう? ならば、小生と 取引を致しましょう」
姿勢を正した<冥忌士>は、私に微笑んだ。
「報酬として、魂をご提供下さい。さすれば、貴公を お助け致します。ああ。提供頂くのは、天寿を全うした後で結構ですので」
「─」
「ご安心下さい。<冥忌士>の誇りにかけて、貴公をお騙しし、助けた直後に命を奪うが如き さもしい真似など致しません」
「──」
「貴公はつつがなく、自らに与えられた生を 存分にご全う下さい。小生も可能な限り、守護いたします故」
「…守る? <冥忌士>が??」
「最終的に 貴公から、より良質な魂を頂くための 一手間ですので、お気になさらず」
魂を取られたら、死後は確実に<地下界>に堕ちる事になるだろう。
それでも、ここで<邪術使い>として処刑され、不条理に生を断ち切られるよりは、遥かにマシな結末だ。
「わ、私を救うというのは…どうやって……」
「後腐れない様に この街の全住人の抹殺も出来ますし、あなたを この牢獄から脱出させた後、事を有耶無耶する方法も御座います。どちらをお望みで?」
「─ 穏便な方で。」
「おやおや、慈悲深い事で。」