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短編集65(過去作品)

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連鎖反応



                 連鎖反応


 同じマンションでも、見る方角によって大きさがまったく違っているところがある。
 そのマンションは川に面して建っていて、ちょうど土手に建てられていた。駅にも近く、学校にも近いわりには値段が手頃だということで三LDKのマンションに空き部屋は少なかった。
 築にすればもう二十年以上は経っているはずだが、管理人が適度に改修工事を行うことで、まだまだ新しいままに保てている。
 米田幸一は、やっと三十歳になったばかりの時に、そのマンションを借りることにした。そのマンションは独り者や新婚用にということで、二LDKの部屋もあった。実際に交際している女性もいて、結婚もそろそろ視野に入れていることもあって、二LDKの部屋を探している矢先だった。
 結婚しても問題はなかったのだが、米田の方で、
「もう少しすれば係長になる。その時に結婚しよう」
 と話をしていた。
 係長になれば、転勤もあるかも知れない。そこまで考えていたので、賃貸マンションで住みやすい場所を探していたところ、この物件が目に付いたのだ。
 マンション住まいは初めてである。それまでは会社の寮に住んでいた。綺麗で家賃も安いので、本当は出たくなかったが、入寮希望者も多く、三十歳をめどに他を借りるというのがマナーになっていた。
 寮だけあって規則は厳しい。当然女人禁制で、彼女を部屋に連れてくるなど不可能だった。
 彼女は取引先の会社で事務をしていた。営業で回るうちに気になり始めたのだ。
 今まで一目惚れなどしたことのなかった米田にしては、最初から彼女が気になってしまったことに戸惑っていた。なるべくまわりに気付かれないようにしようと思っていたが、案外簡単に見破られた。
「米田君は実に分かりやすい」
 取引先での内販の責任者に、バッサリと斬られてしまった。こうもあからさまに言われれば、開き直るだけだった。
「照れくさいですね」
 否定しようとは思わない。むしろ冷やかされている方が気が楽だ。彼女もまわりの様子に自分が気に入られているのに気付いたようで、まんざらでもなかった。自分のことを気に入られてよほど相手が嫌いなタイプでない限り、嫌な女性はいないだろう。
「自分のことって、なかなか分からないものなのよ」
 付き合い始めてから、その時のことを思い出しながら、顔を高潮させて話してくれた。
 付き合い始めてからの半年はあっという間だった。だが、一番楽しかった時期でもあり、胸がときめいた時期でもあっただろう。それ以降が惰性だったというわけではない。
 付き合っている人がいない時、
「彼女がほしい」
 と感じた時のときめきは、最初の半年に凝縮されている。そこから先は気持ちが冷めてしまうか、それとも、さらなるステップへと発展していくかの分かれ目である。
「恋が愛に変わる時」
 というターニングポイントは、半年くらいの付き合いではないだろうか。
「恋」というのは、相手から与えられるものを楽しく感じ、それに対して返す気持ちだと思う。「愛」は自分から与えたくて、自然に与えるものではないだろうか。その違いを感じたのは、半年からさらに付き合いを深めていってからだった。
 相手の気持ちや立場を考えるようになる。気を遣っているのだろうが、自然な気持ちとして現れれば、それはもはや「愛」である。親が子供に示すもの、子供が親に求めるもの、それこそが「愛」というものである。他人にそこまで感じることができるものかと思っていた頃の自分は、まだまだ女性と付き合ったことのない頃のことだった。
 親は厳しかった。
 一人っ子で育ったので、親の厳しさは普通だと思っていたが、中学に入り、友達の家に皆で泊まろうと言うことになった時、家に連絡を取った皆はそのまま泊まっていいという許可をもらっているのに、米田だけ、
「帰ってくるんだ」
 と頑なな親の言いつけで帰られた。
「皆は皆、お前はお前だ」
 と言われて、当たり前のことなのに、そこまで偏屈にどうしてなるのかを考えると、自分のまわりの世の中だけが狂っているのではないかとさえ思うようになっていた。
 早く自立したいと思っていたので、都会の大学を目指して勉強した。何とか浪人することもなくストレートで進学することができ、その時から初めて一人暮らしを味わった。
 気楽なものだった。アパート暮らしだったが、一人で暮らすには不便はなく、たまに自炊もしたが、大学の近くには安い定食屋もあるので、ほとんどはそこを利用していた。
 決して勉強は好きではなかったが、友達と話す雑学には興味があった。知ることの喜びも大学生ならではの醍醐味で、話題についていけるだけでなく、自分から話題を提供できることが何よりも嬉しかった。
 最初から想像していたような大学生活を送っていた。唯一、なかなか彼女ができないことだけが悩みだったが、それ以外は楽しいものだった。アルバイトやサークルといったキャンパス以外での出来事の方へ次第にウエイトが置かれるようになるのも仕方のないことだろう。
 三年生くらいになると、アパートに友達が泊まりにくることもあった。いろいろな話を夜を徹して話すのが好きで、缶ビール片手にコタツの上に広げられたつまみやスナック類を肴に時間を忘れて話をしていたものだ。
 米田の方が、アパート暮らしの友達のところに遊びに行くことも多かった。人の生活を垣間見るのも楽しいもので、別に深入りするわけではないので問題ないだろう。迎える方も一人で飲むよりも時間を忘れて話す方が楽しいというものである。
 学生時代は限られた時間の中で、
――どう楽しむか――
 というのが重要である。何も考えずに楽しければいいように見えるかも知れないが、一番現実的な未来を見据えている時代なのかも知れない。
 社会に出るという事実は間違いなくやってくる。未知の世界であって、怖い部分もあれば楽しみな部分もある。しかし、今を楽しんでおかなければ後悔するという意識もあるし、あまり先を見すぎて今を楽しめないという気分になってしまうのも事実である。精神的に不安定になるのも大学時代が一番多かったように思う。社会に出てからは、そんなことを感じる暇もないからだ。
 学生時代に所属していたサークルが文芸サークルだった。いろいろな表現できる作品を創作しては定期的に発行している機関誌に載せるというのが主な活動内容だった。
 小説を書く人もいればイラストやアニメもいる。ポエムを書く人もいて、内容的には充実していたと思う。
 小説やアニメはファンタジーやホラーが多かった。ファンタジーとホラーの分かれ目というのも難しく、ファンタジーっぽいホラーだったり、ホラーっぽいファンタジーだったりと、作者が言ったことがそのままジャンルとして生きていた。作者がファンタジーだと思えばファンタジーなのだ。
 作品紹介も作者が独自に行っていた。解説と称して、作品の最後に他の人が批評めいたことを書いているが、礼儀として悪いことを書くことはない。褒めてばかりともいかないので、解説する人も難しいものだ。
作品名:短編集65(過去作品) 作家名:森本晃次