小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

『イザベラ・ポリーニの肖像』 改・補稿版《後編》

INDEX|3ページ/9ページ|

次のページ前のページ
 

7.旅路の始まり



 衝撃のオークションから一週間後、イザベラは再び厳重に梱包され、オークションが行われたロンドンから、今度はパリへと向かった。

 パリは芸術の都と呼ばれる、しかしパリで芸術が花開いたのは十九世紀、印象派の時代からのことだ。
 一方、フィレンツェも芸術の都として名高い、しかもそれは十五世紀、ルネサンス期からだ。
 パリから見ればフィレンツェは古臭く、フィレンツェから見ればパリは新興に過ぎない。
 両市の市民、とりわけ美術関係者や愛好家の間では、こちらこそ芸術の都の名にふさわしいと考え、密かにライバル心を抱いていた。
 そこに降って沸いたのが『幻の名画』の衝撃的なオークションだった。
 ルネサンス期のイタリア絵画の特徴が色濃い絵画であったならそれほど大きな話題にはならなかったかもしれない、しかし『イザベラ・ポリーニの肖像』はルネサンス期の絵画としては全く斬新なもので、プラッティの他の作品と比べても明らかに異質で、むしろ四百年後に興る印象派を思わせるような柔らかなタッチで描かれている、パリ市民から見ても『古臭く』ないものだったのだ、それゆえパリ市民はイザベラを熱狂的に迎え入れた。
『ベルジュール』の最も奥まった部屋に掲げられた『イザベラ・ポリーニの肖像』、それを一目見ようと、パリ中から、フランス中から、そして海外からも人々が詰めかけ、喜んで十ユーロの特別観覧料を払い、それ以上の満足を持って画廊を後にした。
 ベルナルド・マーティンの名は美術関係者の間ではすでに知れ渡っていたが、パリに『イザベラ・ポリーニの肖像』をもたらした男として、その名は一般市民にも知れ渡り、彼の元へは新聞や雑誌のインタビューの申し込みが殺到し、テレビ局からの出演依頼も後を絶たない。
 そして、彼の元へは世界中の画家から作品が集まるようになった、彼は名実ともに世界一の画商になったのだ。


「どうです? 損はなかったでしょう?」
 一年後、ベルジュールのマーティンの元を訪れたのはウィリアムズだ。
「確かに……イザベラの特別観覧料だけでも三百万ユーロになりましたよ」
「でも、それはあなたが得たものの一部なのでは?」
「そうです、絵を扱って欲しいと言う依頼は殺到していますよ、フランス国内やヨーロッパ各地からばかりでなく、アメリカ、中南米、アジア、オセアニア、アフリカ……それこそ世界中からね、そして私が扱うと誰もが言い値で買ってくれる、駆け引きなど必要ないほどにね……まだ名前を知られていない若い画家の作品でも私のところを通すだけで高く売れるようになりましたよ、もちろんベルジュールで扱うのは私が才能を認めた画家に限りますがね」
「若き芸術家の支援になりますね」
「いや、私は商売をしているだけですよ、売りものは多ければ多いほど良いが、私はそれを生み出すことは出来ない、見出すことしか出来ないのでね」
「しかし、結果として新しい才能を世に出されている」
「まあ、少しでも美術界に貢献できているとしたら光栄ですよ、長年この業界で飯を食って来たものでね」
「ところで、今日伺ったのは他でもありません」
「『イザベラ・ポリーニの肖像』売却の話ですな?」
「はい、ニューヨーク市立美術館の方で準備が整いました、お約束通りの二億ユーロです」
「異存ありませんよ、ただ、取引価格は伏せて頂きたいものですな」
「ええ、ここまで脚光を浴びた『幻の名画』ですから、オークションの時より値が上がっていないとあってはイメージが落ちますからね、それは先方からのご希望でもありますよ」
「なるほど、賢明ですな、美術品の価値は値段で決まるものではないなどと言われますし、私もそれは真理だと思う、だがそれはあくまで主観的なものだ、客観的な価値は値段でしか測れないものです……もちろんお譲りしますよ、最初からそのお約束だ、イザベラは私の画廊にもう充分に貢献してくれましたからな」
「では、先方と日程などの細かい調整を始めさせていただきます、よろしいですね?」
「ええ……でも実は彼女を失うのは寂しいのですよ、すっかり魅せられていましたからな、しかし、あなた方の計画が全て上手く行けば、それは彼女にとっても幸福なことになるでしょう、彼女のこれからの旅も幸多いものであることを祈るばかりです……」
 マーティンは画商としてではなく、愛好家としての慈愛に満ちた、いや愛しい孫娘を見るようなまなざしをイザベラに送った……。