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『イザベラ・ポリーニの肖像』 改・補稿版《前編》

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「お二人だけで『イザベラ・ポリーニの肖像』を売ろうと?」
「売ると言うより救いたいのですよ、あれだけの名画が世に出ないのはなんとも残念です、個人宅に私蔵されるのもしのびない、広く人々の目に触れてこそ価値がある、そうお思いになりませんか?」
「そう思わなかったら美術館長などやっていませんよ、絵画の価値とは金額の多少だけで計れるものではない、どれだけ人の心の琴線に触れるかどうかです、そして琴線を震わせられる人の数は多ければ多いほど良い」
「仰る通りです、ですが、パオロにはどうしても金が必要な理由があるようだ、オークションで買い手がつかなければ『幻の名画』は再び幻になってしまいかねない……」
「先ほど何かお考えがあると仰ってましたな?」
「ええ、そう申しました」
「それで競売が成立すると?」
「まだそこまでは……今はその根回しをしている段階です、もしそれが上手く行けばイザベラは旅に出ることになり、数年後にあなたの手に渡ってその旅を終えることになるのですが……」
「ですが私のところに回って来る頃には三億ユーロになっているのではありませんか? フランコが生涯かけて熱望した絵ですからな、手に入れたいのはやまやまですが、用意できる金額には限りがありますのでね」
 ロベルトはフランコの肖像に目をやりながら残念そうに言った。
「いえ、一億二千万程度になると考えているのですが」
「ほう……しかしそれでも厳しい額ですな、残念ながら……」
「あなたの手に渡る頃にはあの『モナ・リザ』に匹敵する知名度を得ていたとしても?」
「……もしそれが本当なら、フィレンツェ美術館はルーブルに負けない目玉を手に入れることになる……それならば借財をしてでも……ですが、そんなに上手く行きますか?」
「やってみなければわかりません、あなたにお願いしたいのは、もし計画が上手く行き、その時が来たら『イザベラ・ポリーニの肖像』を買い取っていただきたいと言うことだけです」
「私のところでのリスクは小さいようですね、それでも二千万のリスクは負うことになる、一億が妥当の作品を一億二千万で購入することになるのですからな……ですが、イザベラはこの街にいるべきだ、絵が世に出ればフィレンツェ市民、いやイタリア国民誰もがそう願うことになるでしょう……一度イザベラにお目にかかることはできませんか? 彼女の美しさがあなたの仰る通りなら喜んでお引き受けいたしましょう……」