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異時間同一次元

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 自分の顔がそこにあった時の驚きはハンパではなかったが、そこにさらにのっぺらぼうがいたのも、別の意味で恐ろしいものだった。
「お前は一体誰だ?」
 と早良が聞くと、
「俺はお前さ」
 と口もないのに、喉が反応して声にならないような声を発した。
「俺はお前の未来の姿さ。絶えず過去にばかり執着しているお前と、未来のお前とではまったく違っているんだ。だが、未来のお前と言っても、実は同じ時代に存在しているんだぞ」
 と言われた。
「どういうことだ?」
「お前は今、道化師を追いかけてきただろう? あの道化師は実は今のお前なんだよ。未来のお前はこののっぺらぼうの俺というわけさ。そして、同じ時代に存在しているお前は、今のお前の存在を知ってしまった。そして自分だけが本当に自分だと思うようになったことで、俺が生まれたというわけさ。だから俺はお前を葬りに来た」
「俺は死ななければいけないのか?」
 死ぬことの恐怖よりも今の自分の立場を知りたいという衝動が強かった。
「元々お前という存在はないんだよ。だから、死ぬという概念ではなく、虚像は消え去るだけなんだ」
「まるで影絵のようだ」
 というと、
「その通り、道化師であるお前は道化師に戻るだけなんだ」
 とのっぺらぼうはそう言って、
「もう一つ教えてやろう。もう一人のお前、小泉という男なんだが、やつももうすぐこの世から消える。やつも元々存在していないやつだからな、その役目はさっきお前が見た道化師がやってくれる。つまりはそれぞれの時代のそれぞれの自分を、本当の自分が交互に葬りに行くということだ」
 まるで何を言っているのか分からない。
「心配するな。これはお前たちだけに起こったことではない。同じような人は五万といるんだ。これが一種の時代の裂け目とでもいうべきか、世界という次元の歪みを元に戻すために起こる何千年に一度かの出来事なんだ。自分でも自覚があるだろう? こんな世の中なくなってしまえばいいと思ったことも無数にあるはずだ」
 やつの言う通りだった。
 早良は自分一人で十分だと思っていたこの世界だが、消えてなくなるのが自分たちだけではないと聞いた時、少なからずの安心感があった。
「生きるって一体何なんだろう?」
 最後は本当に当たり前のことを考えてしまった早良は、永遠にその後悔をし続けるのだろうか?

                  (  完  )



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作品名:異時間同一次元 作家名:森本晃次