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――宏美――
平成九年十月――

宏美はハロウィン会場に行き、免許証と招待状を見せ、名前を告げ、受付を済ませた。
 てっきり米軍基地の中でやるハロウィンパーティーかと思ったら、あの電話の後宏美のハイツに送られてきた招待状で知ったが、会場は厚木市内の外国人のために作られたようなアイリッシュパブだった。店の明かりは暗く、ビリヤードをする外国人や、金髪の外国人男女の二人が、カウンターで七百ミリリットルくらいの湾曲の形のグラスでビールを飲んでいる。一つは黒いビールで、もう一つは琥珀色だ。
 ダーツをする外国人にジーンズのショートパンツからは小麦色の長い脚が見える日本人と思われる女の子が流暢な英語で金髪の男と話をしている。
“私場違いなところに来ちゃったかな”
 そう思った瞬間、誰かが私の肩を叩く。振り向くと、
「ハイ、ヒロミ」そこに立っていたのはハンサムな外国人だった。
「ハイ、あ、ナイストゥーミーチュー」
「ナイストゥーミーチュートゥー」
「あーメニ―メニ―外国人、外国人てなんて言うんだっけ?」
「外国人いっぱいですね。でも心配ない。私アレック。何でも聞いて」
 アレックは普通のビールを片手に日本語で言う。
「サンキューでも私英語話せないし、やっぱ帰った方がいいかな?」
「そんなこと言わないでヒロミ。せっかく会えたのに、私と話をすればいいでしょう?私じゃいや?」
「そんなあなたハンサムだし背が高いし、俳優さんみたいだし」
「宏美もすごい美人だよ。こんな美人の日本人初めて」
「やだっ、アレックたら、でも私英語話せないし」
「私が英語を教えます。無料だから英会話スクールよりいいでしょう?」
 私はアレックとビリヤードをした。ナインゲームだ。
 アレックは「僕が勝ったら今度僕とデートしてくれる?」
“アレックとデート”ドキドキしながらも悪い気はしなかった。
「いいわ」
 そしてアレックが六番ボールを打つときに、言った。
「いま六番から九番まで一回も外さず全部入れたら、今晩僕のマンションに来てくれる?」
「いいわ。でも無理よ。全部は」
 まずアレックは六番ボールを落とした。白いボールは転がり七番ボールの前につく。七番、八番と落とした。九番ボール。少し離れているがアレックが狙いを定めて打つ。九番入った。
アレックはいたずらに笑う「ハッハッハッヒロミ」
私の心はもうアレックのものになっていた。
「もう、あなたは悪い人よ。本当あなた悪い人」
「約束だよヒロミ」
「分かった。私今晩あなたの家に行く」
 そして私たちはキスをした。
 以前の彼氏との思い出は輝かしいものではなかった。少しおじさんぽかった。平和島の競艇でボートを真剣に見る彼が本当におじさんに見えた。ランチが割り勘なのは分かるが、ホテル代が割り勘だったときは本当にしらけた。
 アレックは違う。もうガールフレンドだからといって今日飲んだビール代全部払ってくれた。そして二人でタクシーに乗った。
 私たちはタクシーの後部席でキスをした。
 運転手がけむたそうに私たちの反対方向に目をやる。私は恥ずかしさなど吹き飛ばし、堂々とアレックとキスをする。まるで運転手がいないかのように二人でキスをする。
 そしてアレックのマンションに着く。一人ずつシャワーを浴びた。二人でベッドに入り抱き合った。女という私がこの外国人に大切なことを許すのだ。
 私、今愛されている。すべてをこの人に捧げる。私の人生を授ける。
「アイラブユー」
 アレックがそう言うと私はますます濡れていく。私はかすれるような声を出し、二人で求めあう。
 一瞬、一瞬が夢のようで、それは火であり、血であり、肉体の、身体と身体の密な関係だった。
「こんなのはじめて」私が言う。
 外国人であるアレックは、私の潜在意識まで虜にする危険な魅力があった。
 私愛されてる。私、今愛されている。
 そして半年が経った。翼から電話がかかってきた。
「宏美、元気にしてる?」
「元気よ」
「料理とか一人で作ってるの?」
「ええ、一人じゃないわ。料理は土日に彼のマンションでパスタを作ったり、昨日はぺペロンチーノ」
「一人じゃないって、どういうこと?」
「ええ、まあなんていうか、私を愛してくれる人がいて」
「その人どんな人?身長高い?会社員?公務員?まさか医者とかじゃないよね?駄目よ、出し抜けにするのは」
「医者じゃないわ。身長は百八十センチ以上」
「百八十センチ以上相当高いじゃん」
「それと基地で働いてるの。厚木のベースで」
「えっ、ひょっとして外人?」
「まあ、そういうことになるかな、アメリカ人」
「えっ?どうして?どうして?どうやって知り合ったの?」
「えーそれは秘密よ」
「えっ、外国人の彼ってハンサム?」
「うーん。ハリウッドスター並みにハンサムかな。足とかすごく長くて、顔はシュッとして」
「えっー何それ。本当何それ。一発逆転サヨナラ満塁ホームランじゃん。今度、もっと詳しく聴かせて。ていうか、彼に会わせて。私これでも英語話せるのよ。英検二級もってて。宏美、英語話せたっけ?」
「いま少しずつ勉強してる。じゃあもうすぐ彼と外で会うから。またね」
 そう言って受話器を置く。
 アレックとの日々を重ねた。英語と日本語の壁を超え、つながっていると思った。そして二人の愛の結晶が授かろうとした。
「陽性です」産婦人科の先生が言う。「陽性ってつまり」
「あなたは妊娠二カ月目です。あなたお母さんになるんですよ」
 私は妊娠をアレックに告げるため、デートの時間も待ち遠しかった。
“アレック、アレック私の旦那”
 アレックは私を見つけると、「ハーイ」と挨拶をした。その頃の私はいくぶん英語が話せるようになっていた。
 英語で“ねえ、ニュースがあるの。何だと思う?私妊娠したの”
 私がそう言うとアレックが険しい顔をしている。
“あれっなんで喜ばないのだろう。私の英語通じてるのかな?”
“あなたとの子供よ”アレックは変わらず、爪をかじりながら、険しい顔をする。何を考えているのか?そしてアレックの口からこぼれた。
「ヒロミおろすんだ。その子をおろすんだ。お金ならいくらでも出す」
 彼は日本語でそう言った。
「えっ?どういうこと?私たち結婚するんじゃ……なんで産んじゃいけないの?」
「俺たちは生活していくにはお金が足りない」
「そんな、ベースの給料って結構いいんでしょ?」
「でも俺はあちこちのベースに転勤するかもしれない。子供の教育に良くない環境だ。生まれてくる子供は不幸になる」
「転勤なんてそんなの乗り越えていけるわ。私あなたとだったら、どこだってついていく。アメリカだって。マレーシアだって。中国だって」
「ヒロミお前一人の問題じゃないだろ」「どういうこと」
 その日はアレックと別れ、次の日アレックに電話してみた。アレックは電話に出ない。アレックは電話に出ない。どういうこと?
作品名:リピート 作家名:松橋健一