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百代目閻魔は女装する美少女?【第三章】

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 駆け引きが始まったようだ。しかし、カードをちゃんと手に持たず、床にバラバラと置いたままの閻魔女王。カードは表になっている。勝つ気があるのか疑問。
((うちは、うちは、持っていない、いや恥ずかしくて言えないどす。))
 絵里華はいつもの通り、人形が代弁。カードは本体の着物の内に隠すように入れている。いったい何を恥ずかしがっているのか、さっぱりわからない。
「神は心の内を世間に披露してはならないという不文律がある。カードのことは神のみぞ知るだ。」
 そんな不文律はない。神でなくても手の内を晒さなければ、本人しかカード内容はわかるまい。それにしても黄金衣が眩しい。
「ピピピ。この女の誘萌力は950。アタシと比べると月と酢に入ってる酢酸ね。」
 こんな時にユーホーキャッチャーを作動させている由梨。月と酢酸との比較は意味あるの?
「まっほもジョーカー持ってないよお。」
 白衣と看護帽のままでここに来ている。コスプレーヤーではなかったようだ。巨大注射器を背中に負っている。見る限り危い人にしか見えない。これでも学園アイドルなのか?
「ピピピ。この女の誘萌力は2550。いいセンいってるけど、アタシの足元ギリギリね。」
 変な評価。足元に及ぶということはそれなりにレベルが高いと言ってるのか?
「べ、別にジョーカーなんて持ってないんだからねっ!」
 由梨は小さなからだをさらに丸めて、カードがどこからも見えないようにしている。
「「「「「持ってるのは由梨だ。」」」」」
 全員の見解が一致した。
((賞品はどうでもいいけど勝負なんだからどうしても勝ちたいな。アイドル根性はっきい!))
 万步がトリガーカードを取り出した。すると風が吹く。みんなでカードを取り合って、由梨の手からゆらゆらと離れた。ジョーカーのイラストはオレだった。
 ダイエットに失敗した女子のような重苦しい雰囲気の中。
「勝ったあ!」
 両腕を左右に広げて突きあげて、Vサインを構成したのは閻魔女王。
「ほら、負けを譲ってあげるんだからねっ。ありがたいと思いなさいよ。」
((うちが負けた?ってそれ、おいしいどすか?))
「まっほはアイドル活動が忙しいんだから冗談やめてえ。」
「神は勝利するものと決まっている。」
 誰も負けを認めない。しかも四人共に自分の胸のあたりでごそごそ何かまさぐっている。勝利者の閻魔女王はそれを見てなぜかニヤリ。
「あら、こんなところにジョーカーがあったわ。きっとトランプのせいで、勘違いしたんだわ。セレブも木から落ちるだわ。」
((うち、本体に忘れ物をしてたんどす。))
「まっほ、ファンからもらってたのを忘れてたあ。」
「神の胸のうちに収めていたが、明かす時が来たようだ。」
 四人みんながジョーカーを出した。その瞬間、眼に突き刺さるように四方八方に光が飛ぶ。
「「「「眩しい!!!!!」」」」
 閻魔女王以外が手を眼に当てて、その場にうずくまった。磁石に引っ張られたように頭を床にくっつけている。四人とも水着姿になっている。しかし、オレはみんなと違い、なぜか立ち上がった。無意識である。からだ全体に湧き上がるように力が漲る。手足の筋肉が盛り上がり、ボディビルダーになったような奇妙な感覚が走る。血流が何十倍にもなり、静脈が固い針金のようにマウントしている。髪型も鯉のぼりのように流れている。
「これが閻魔後継者の力だね。素晴らしい。をねゐさん、ほめちぎるよ。ぐすっ。」
 閻魔女王が感動のあまり涙している。一方四人は少しずつ曲がった背中を立ててきた。
「す、素敵過ぎるわ。あら、セレブとしたことが、こんなジェントルマンを知らないなんて。セレブも筆の誤りなってことはないんだらねっ。」
((うち、こんな素敵な殿方見たことないどす。これって浮気どすか?))
「まっほ、アイドル仲間で、美男子たくさん見てきたけど、紅白歌合戦のトリをソッコー取れると思う。」
「神を超越することってあり得ないはずだが。」
 オレはからだの異常を確認するため鏡を見た。そこにはこれまで見たことないようなイケメンが映っていた。長くて蒼いエナメルのような髪で片方が隠れた涼しい目、シャープに尖った鼻筋。濃いワインのような淫靡な唇。とてもこれまでのオレとは似ても似つかぬ姿。そしてオレの後ろには奇妙な光景が並んでいた。
 いつも眼を伏せている由梨は真正面を向いて、両手を顔の前で合わせて、アニメ少女のようにキラキラ星を浮かべている。
 絵里華人形は何を思ったのか、着物の前をはだけている。
 万步はナース服のままで、花束を持っている。もらいものか?
 美緒はやおら般若面を外した。すると、千手観音像の背景のように金色の光沢を自ら放つ。ゆえに顔は見えない。糸電話の神コップで『東京スカイツリー』を作っていた。
 しばらくすると元に戻ってしまったオレ。その場には四人が倒れていた。
「都ちゃん、これで閻魔の力わかったかな。そこの四人は都ちゃんのパワーで卒倒したんだよ。をねゐさんもかなりやばかったけどね。」
「つ、つまり、トリガーカードを揃えてしまえば元に戻ることができる。いやそれ以上になってしまうのか?」
「さあどうかな。」
 不敵な笑みを浮かべて首を傾けた閻魔女王。

「ううう。いったい何が起こったんだ。神が倒れたりしたら、この世が終末を迎えてしまうぞ。」
「おはよー!朝だね。まっほは今起きたよ。」
 ちなみに卒倒してから10分しか経過していない。
「ふああああ。セレブがどうして床で寝ているのかしら。」
((うちは伏せ目モードだったみたいどす。))
 言われてみれば人形なので、オレたちと話している時は目を開けたままだな。瞬きが必要ないのは便利だけど、キモイというのは気のせいか。
「ところでババ抜きは誰が勝ったんだ?神が優勝するのが当然だろうな。」
「ちょっと待ってよ。セレブの手を見なさいよ。」
 由梨の左手には、倒産危機で途方に暮れていた社長が一等宝くじを拾ったかのごとく、しっかりとジョーカーが握られていた。
「なんと!それでは勝利の二文字しか知らぬ神が敗北という外来語を明治維新しろというのか。」
 『明治維新する』という言葉は社会のテストに出るかも。
((うちは姑にイジメを受けたんどす。よよよ。))
「誰が姑なのよ!」
 すかさずツッコむ由梨。たしかにからだは姑のように小さいが。特に一部が。
『ガツン』。姑からの憎悪のこもった一撃。
「じゃあ、まっほは二番目に優勝だあ。」
 どこの世界に二番目の優勝というのがある?
「面白くない。神がそう思うとこの世が滅亡することになるが。いいな。」
 良くはない。
((うちは由梨はんが嫌いになります。))
 好きだったのか。
「神は一線を退いて、フツーの女の子になる。死んではいるが。」
((うちは人形に籠るどす。))
 初めから人形内思考しか展開していないが。
 この亀裂が次の展開に少しだけ影響を及ぼすことになるとは神のみぞ知らない?