百代目閻魔は女装する美少女?【第三章】
強い?オレは何もしていない。学園アイドルまっほが自爆しただけだ。
「そうか。そんなに強いのか。楽しみだな。」
だから闘ってないって。
『ギイイ』。奥のドアがおもむろに開いた。眩しい。その部屋は外に面しているらしく、太陽がまともに差してきた。いや、そうではない。奥の人物から発せられる光が黄金に拡散している。それも尋常な光ではない。眼を凝らすと、椅子に座っている。サイズは総理大臣のそれよりもはるかに大きなもので、これが光源らしい。全部が金でできているのか?そうであればすごい量を使用していることになる。金の相場って1グラムあたりいくらだったかな。
「うわ~ん。まっほは負けちゃったよお。」
「よしよし。かわいそうに。負けても一生懸命やったんなら仕方ないぞ。」
「そお?ありがとう。なでなでしてくれる?」
「いいぞ、いいぞ。それでこそ、アイドルだ。撫でてやろう。」
「わああああ。うれしい。う~ん。気持ちいい。」
こいつらはいったい何をしているんだ。かなり怪しげな雰囲気だぞ。
「まほは本当にういやつだのう。よし、カタキを取ってやろう。」
そんな会話を耳にしながら、抜き足差し脚で近づいたオレ。本来の目的は腹痛沈静化である。相手が保健の先生であれば、当然問診をしてもらう権利がある。
「あのう、オレ、お腹が痛くて困ってるんですが。」
一応、患者として、ふたりにアプローチ。
「貴様、名を名乗れ。」
「『名前を言えって』よ。そういやまだ聞いてなかったねえ。」
学園アイドルまっほは椅子野郎の言葉を取り次いでいる。
「名を言う間もなく、いきなり攻撃して自爆したのはそっちだろう。オレは1年D組の日乃本都だ。」
「何しに来たんだ?」
「『ここに来た目的』を聞いてるよお。」
「保健室に来たんだから、からだの調子が悪いからに決まってるだろう。お腹が痛いんだよ。」
「じゃあ、病院に行け。」
「『病院に行った方がいい』って言ってるよお。」
「それじゃ保健室の意味がないだろう。ってか、さっきから会話変じゃね?学園アイドルまっほが取り次いでるように見える。そもそも声って聞えてるのに、どうして直接話しかけないんだ?それに光が眩しくて、奥の人の顔見えないし。保健の先生なんだよね?」
「無礼であるぞ。」
「『無礼』だと言ってるよお。」
「だから聞えてるって。」
「ええい。じれったいのう。」
『ガタン』。椅子を立った姿がおぼろげに見えた。
『コッ、コッ、コッ、コッ』。ヒール音が静寂を破る。これは20代後半が発生させる重低音だ。
「こら、失礼なことを言うでない。」
「お、鬼だ、鬼がいる!」
オレは恐怖のあまり硬直してしまった。オレの双眸に映ったのは紛れもない金色の鬼。白衣を着ている。ん?白衣じゃない。『金衣』だ。肩には鷲の人形のような装飾がある。しかも頭上には白輪をしっかりと浮かべている。鬼なんだから人間のカテゴリーからはすでに逸脱している。
「我は保健委員だ。そこにいる美村万步(みむらまほ)と同じ務めをしている。」
よく見ると、黄金の般若面を被っている女子がそこにいた。靴はローファーではなく、ハイヒールだ。そんなの許されるのか?それと学園アイドルまっほについて、本人がすでに接頭語を外しているので表記を改めて『万步』とする。
「我は神。ゆえに規制など受けぬ。これくらいは当たり前である。」
確かに、一般の生徒では般若面を装着できまい。そもそも『金衣』着てるし。手強そうな相手だ。でもオレ、闘いに来たんじゃない。
「保健委員ならこの腹痛を早く直してくれよ。」
神はオレをじっと見つめている。
「これは実に美しいのう。気にいった。謁見を許す。」
すでに目の前にいるんですが。横には万步が立っている。神の腕を取っている。身長差がかなりある。神はかなり背が高く、オレくらいはありそうだ。もし女子ならモデル級と見た。
「え~、美緒。もったいないよお。そんなエサを与えちゃだめ。この子、けだものだよお。」
神は『美緒』だと判明。よって神を美緒と改める。実際世の中では、自称『神』は大抵ニセモノだ。
「もしけだものだったら、蹴散らすから心配するでない。よしよし。」
美緒は再度万步の頭を撫でた。『ごろごろ』。気持ちよさそうだ。美緒はオレに目を向けた。正確には般若の面があるのでこっちを見ているのかはわからないが、鋭い視線を感じている。それもかなり熱いものだ。
「近う寄れ。ほれほれ。」
美緒は犬を呼ぶように手招きをしている。けだものとしての扱いに非常に近いと思うのは気のせいか。
「はあ。とにかくからだを見てくれよ。」
「どれどれ。手を見せい。ふふん♪」
美緒はオレの手を取った。なんだか嬉しそうである。お面がなければ完全に目尻が下がっているのを確認できるはず。男なら鼻を伸ばしているという表現が妥当だろう。『ぺロッ』、舐められた。
「ぐわッ!」
思わず声を出してしまった。
「これこれ、女の子なら、『きゃあ』だろうが。」
「オレは男だぞ。」「ぎいやああああ!」
オレが言ったと同時に悲鳴があがった。美緒の絶叫だ。美緒は電光石火で黄金椅子に駆け戻った。まさに神速だ。
「ふうふうふう。こ、こやつ、男じゃないか。」
「だからけだものだって、まっほが言ったよお。」
「そ、そうか。神が悪かった。あとで、お詫びのなでなでをつかわそう。」
「ホント?楽しみだあ。わくわく。」
万步はひとり盛り上がっている。
「あれを持て。」
「いつものヤツだね。了解だよお。」
万步は保健室に戻ると何かを手に持ってきた。
「これを使うのは久しぶりだ。」
美緒は何かを顔に装着した。
「これを使って話をするんだよお。」
万步がオレに渡したものは美緒が口に付けたものと同じ。
『もしもし、聞こえますか。』
『もしもし、聞えます。』
『ならばこれでよし。』
『そのようだな。』
以上は美緒とオレの会話。ふたりは『糸電話』でコミュニケーションを取ることとなったのである。小学生の工作か。
『お前、都と言ったかな。男とわかった以上、この神の手には負えない。まっほの言う通りにするがよい。』
『はあ?今までのやりとりはいったいなんだったんだ!』
『気にするでない。神の仕業はすべての原理、正義である。』
(さっぱりわからない。)
『ブチッ』。いきなり音声が中断した。糸が切れたのだ。
「うほほほほ~い。じゃあまっほが都を診るよお。この紙に今食べたいものを書いて、飛行機作って飛ばしてえ。」
「それは診察と言えるのか。こちらは腹痛だ。食べたいものなんてないぞ。」
「じゃあ、お腹が治ったら食べたいものを書いてえ。」
意味がわからない。お腹の原因はたこ焼き。だからまったく別のものにした。そして、紙飛行機を作って、まっほに投げ返した。なんせ、紙。ゆらゆらと飛んだのはいいが、まっほを通り越してしまった。
「なんだ、これは。ま、まさか、いわゆるあれのことなのか。しかし、相手は男だし。むむむ。」
紙飛行機は美緒に到達したのだった。
「美緒、どうしたのお?」
作品名:百代目閻魔は女装する美少女?【第三章】 作家名:木mori