火曜日の幻想譚
24.がまん大会
「おい、がまん大会しようぜ」
関本からの申し出だ。こいつはいつも妙なことを言い出しては、周囲を困らせる男だ。だが、決して嫌いにはなれない。がまん大会など興味ないが、こいつが言い出したのなら仕方がない。そう思い、つきあってやることにした。
関本と俺はクッソ暑い夏に、こたつとストーブを押し入れから運び出す。
「鍋焼きうどんは、持ってきてあるぞ」
そう言って、アルミ鍋のうどんが10個入っている袋を取り出す。
準備は整った。部屋の窓を締め切り、俺たち二人はストーブを背にし、こたつの中に足を入れる。こたつの上には、グツグツ煮え立った鍋焼きうどん。
ものの数秒で汗だくになった俺たちは、さらに目の前のうどんをすすりだす。
「おかわりもあるからな」
関本はそう言って、汗を拭いながらうどんをすする。
30分ほど時間が経過した。俺たちは5杯のうどんを食いきったが、どちらも譲らない。
こりゃ持久戦になるなと思ったとき、関本がニヤニヤしながら驚くべきことを口にした。
「お前の彼女のさとみちゃん、太ももの内側すっげー敏感なのな」
「?! お前、何で!」
関本はそれには答えず、相変わらずニヤニヤしている。問いただして、回答次第でぶん殴ろうと思ったが直前で踏みとどまる。
(まて、これはトラップだ。こたつから出れば負けなんだから)
俺はギリギリと歯噛みをし、笑う関本を睨みつける。
(なにか、いい手はないか……)
しばらく考えた結果、同じ手を使うことにする。
「お前が入れ込んでるキャバ嬢の真由華、あれ明らかに顔いじってるぞ」
関本はピキンと眉を上げ、苛立った表情になる。
「お前さとみちゃんいるくせに、風俗でアナル責められて、ひいひい言ってるらしいな」
「お前今の勤め先の金、かなりの額横領して黙ってるそうだな」
「お前の父ちゃん、痴漢で捕まったんだってな」
「そんならお前の母ちゃん、人妻風俗で働いてたって聞いたぞ」
そんなことを言い合っているうちに、虚しくなってきた。どちらともなくやめにしようと言い出し、がまん大会はお開きとなった。
終わってからふと考える。あれだけのことを知られているからには、もう関本と縁を切れないな。あっちも同じことを、思っているだろう。
だからあいつのことは、嫌いになれないんだ。