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火曜日の幻想譚

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25.ショッピングモール



 昨年末のこと。

 年の瀬ということもあって、久しぶりに実家に帰省していた。やることもないので、スマホを片手にごろごろしていると、母に買い物を頼まれる。

「どうせすることないんなら、買うものメモに書いといたから、行ってきて」

うるさいなと思いつつ、やることがないのはその通りなので、仕方なくメモを手に取り、それらが購えそうな店を聞く。

「あの通りを車で10分ほど行ったところに、少し前にショッピングモールができたから」

そのショッピングモールならあらかた手に入るということか、理解した私は車を借り、早速出かけた。

「ここ、小さい頃は『ど』がつくほどの田舎だったのになあ」

ハンドルを握りながらひとりごちて、駐車場に車を停める。新しくできたせいか、駐車場もキレイで設備が行き届いている。そして、屋内へ。20年前、ここが田んぼだったことを誰が思い出すだろう。そう思ってしまう程、店内も美麗だ。そして、メモを片手に商品を物色していると、どこかで見た事のある面影に出会った。

「ん? 誰だっけ……?」

数秒間、考え込んで思い出す。かつて、つきあっていた女性だった。

 小さな子を連れて商品を見ている彼女は、相応に年を重ねていたがなお美しかった。

 彼女はこちらの視線に気づき、俺の方を見返った。そして、少し考えこむ。やがて、俺のことを思い出したのだろう、少し戸惑いの表情を見せた。
 声をかけて良いものだろうか、躊躇していたら、彼女と子どもはこちらに会釈して立ち去っていた。
 付き合っていた当時の思い出が去来する。色々な感情がない交ぜになった思いを胸に、俺はいつまでもその場に立ち尽くしていた。


作品名:火曜日の幻想譚 作家名:六色塔