火曜日の幻想譚
26.ひじきの訴え
晩御飯の箸休めに、ひじき煮をちょいとつまんだら、なんとそいつが喋りだした。
「……やっぱり、見た目が黒いっていうのは、食べづらいもんですかね?」
すっかり恐縮しきっている。よっぽど気にしているに違いない。
「いや、海苔や黒ゴマ、イカスミとかあるし、タピオカなんてのも女子に人気だよ」
「そうですか」
「うん。だから君も、今のままで十分素敵だと思う」
「……あなたはそう言ってくれる、優しい方だと思ってました」
「へ?」
「汐織さんが言ってましたよ。あのとき、あなたが優しい言葉をかけてくれてたら……、って」
汐織というのは、つい先日別れた彼女の名だ。そして、彼女はひじきが大好物だった。おおかた、仲間のひじきが汐織の独り言を聞いていたのだろう。
「まだ汐織さんは、貴方への思いを断ち切れていません。今すぐ彼女の元へ行ってあげてください」
「…………」
私は、考え込んでいた。汐織と、よりを戻したいのはやまやまだ。だが、ひじきがこのように、離れている仲間と情報を共有し、ひじきをこよなく愛する一人の女性のために尽力できるということ。すなわち、かなり高度な集団的知性を持っているという発見も捨て置くことはできない。
私は、どちらを優先させようかさらに深く考える。すると、ひじきが大声で叫んだ。
「事態は一刻を争いますよ。急いでください!」
ちょっとうるさいと思った。それに、腹が減っては戦はできない。
私は箸につままれたままわめくひじきを頬張り、白飯をかきこんだ。