火曜日の幻想譚
36.62年後の景色
物々しい和室。
開かれた障子から見える庭は、きっちりと手入れがなされている。手入れだけではない。玉砂利も美しく敷き詰められ、石灯籠の影も見える。時折鳴り響く快音は、鹿威しの音だろうか。
そのような風景を横目に、室内では一人の痩せぎすな老人が立膝を突いていた。丁度上座の中央、向かって右奥の床の間が威厳を際立たせる。その眼光は鋭く、右の手には長ドスを収めた白鞘を握りしめている。
その視線の先。下座にいるは、3人の男。
中央のやや小太りな男はみすぼらしい服装で、左右の二人に押さえつけられている。年のころは老人と同じか、少し若いくらいか。左右の二人はまだまだ若く、ガラの悪そうな風体だ。
「……おい」
老人は、左右の二人に問いかける。
「はい」
二人はやや緊張気味に答える。
「本当に、そいつなんだろうな」
「はい。草の根分けて探し出しました」
「……」
老人は無言で3人の元へとにじり寄り、長ドスの柄で小太りな男のあごを持ち上げる。小太りな男は、苦しそうな息遣いで恐怖におびえる。老人は、その小太りの男の顔をまじまじと見てにやりと笑い、問いかけた。
「ゆう君。元気だった?」
その言葉に、小太りの男はしばし呆気に取られていたが、やがて思い出したのか返答する。
「ひ、ひろちゃん?!」
老人は、ゆっくりとうなずいた後、ゆう君と呼んだ男の肩にしっかりとタッチして叫んだ。
「み〜つけたっ!」
キツネにつままれている表情のゆう君に、ひろちゃんは説明する。
「ゆう君、あの日……、かくれんぼの最中、つまらなくて帰っちゃっただろ」
ゆう君は少し考えこんでいたが、やがて小さくうなずく。
「その日の夜、俺んち急遽引っ越すことになって。ま、簡単に言やぁ夜逃げだよ」
「……そうだっ、たんだ」
「大の親友が、遊んでる最中にいなくなっちゃって、別れの挨拶もできなくて……」
「……」
「だから、こうやってずぅっと探してたんだ、やっと見つけたよ」
ひろちゃんは、嬉しさのあまり、涙ぐんでいた。
「でも、いつまでもこうしちゃ、いられねえんだよな」
「え? どういうこと?」
ひろちゃんの言葉に、ゆう君が何事かと問いかける。
「今度はゆう君が鬼だからな」
そして、すたすたと部屋の出口へと向かう。
「ゆう君、今度は俺が隠れるから見つけに来い。それまで組長の座は貸してやる」
「ね、ねえ。待ってよ」
追いすがろうとするゆう君に、ひろちゃんは振り返らず答える。
「いいか、しっかり100数えてから探しに来るんだぞ!」